
システム脳病態学分野(進化脳病態)
藤戸 尚子 准教授
インタビュー

これまでのご経歴と、現在の研究内容についてお聞かせください。
東京大学大学院理学系研究科で博士号を取得しました。学生の時の研究テーマは、免疫システムがどうやって進化してきたのか、システムの要になるような遺伝子について、色々な動物の遺伝子配列を比較することで明らかにしようというものでした。ヒドラやイソギンチャクなどの無脊椎動物や、古代魚と言われるポリプテルスやカモノハシ、ワラビーなど、色々な脊椎動物のサンプルを集めて、解析していたのですが、研究を進めるうちに、もっとゲノム配列の情報を詳細に解析できるようになりたいと思うようになりました。免疫系の多型的な遺伝子を扱っていたので、1種について多数の個体を手に入れ、DNA配列を読んで解析するのですが、せっかく読んだ配列の情報がほとんど解析に活かせずもどかしく思っていました。そこで学位取得後に進化研究の拠点として知られる総研大(総合研究大学院大学)にポスドクとして入れて頂き、集団遺伝学的な解析手法を学びました。ゲノムにはレベルの異なる情報が何重にも書き込まれており、その解析に非常な魅力を感じています。その後カリフォルニア大学サンフランシスコ校への研究留学と、国立遺伝学研究所での研究を経て今に至ります。遺伝研では人類遺伝学のラボに加わり、過去に起きた出来事が自然選択を通して現在のヒトの健康にどのような影響を与えているのか、より深く研究したいと思うようになりました。現在は病気を引き起こすような遺伝子変異がどうやって進化してきたのかを解析しています。

脳の研究に取り組むことを決めたきっかけと、脳研究所で研究されることになった経緯についてお聞かせください。
2024年に脳研究所に進化脳病態研究室が新設され、2024年4月に着任しました。これまで病気に関連する遺伝子や、免疫関連の遺伝子を解析してきて、進化メカニズムの研究も行ってきました。脳研究所に加わったことで、脳疾患という新しいテーマをもらったという感じでしょうか。まだ手探りで立ち上げを行なっている段階ですが、これまでの自分の研究を統合するような形で、脳疾患研究に取り組みたいと考えています。
また、進化脳病態研究室は、種間比較ゲノミクス解析と線虫研究という多面的な進化研究で成果を挙げられている吉田先生と、線虫を使ったユニークな遺伝子機能解析を進められている井下先生と、私、の現在3人のチームです。異なるバックグラウンドの研究者の集まりですので、それぞれの研究と視点がここで組み合わさって、一人では見えてこなかったようなことが分かってくるのではないかと、非常に楽しみにしています。

脳研究所で研究を行うメリット・研究環境の魅力は何でしょうか。
やはり、脳研究の様々な分野の最前線で活躍されている研究者が集まっていることが最大の魅力だと思います。共同研究の可能性を模索するディスカッションも活発に行われており、非常に勢いのある研究組織だと感じます。私もここで脳疾患研究に貢献し、研究者として成長したいと考えています。

この仕事ならではの面白さややりがいはどんなところですか。また、どのような大変さがありますか。
誰も見たことのない景色を見ることができるという点でしょうか。研究の上で何か新しい事実を発見する、ということは研究者の日常生活には時々あります。世界的な大発見とはいかなかったとしても(笑)、その瞬間にその事実を知っているのは世界の中で自分しかいないと思うと、世界の秘密に触れたという不思議な感動を覚えます。また結果を他の研究者に見てもらい、その意味するところや今後どうするべきかをあれこれディスカッションするのも大きな喜びです。大変なことは研究の長い孤独な道のりです。その意味でも良い研究の仲間を持つことはとても大切なことだと日々実感しています。

仕事をする上で心がけていることやモットーなどはありますか。
自分の仮説に固執し過ぎず、データの正確な理解に努めることでしょうか。そうは言っても難しいのですが、思い込みが強くなりすぎると、データと解析が乖離してしまうと思っています。最初にデータを解析した時に受けた印象や違和感を大切にしたいと思っています。
今後の目標についてお聞かせください。新たに学んでみたいことや、挑戦してみたいことはありますか。
脳疾患に関連する遺伝子変異について解析することで、脳疾患の進化的な成り立ちを明らかにしたいと考えています。過去を明らかにしてそこから学ぶことで、ひとの幸せと健康に貢献する研究をしたいと思っています。

脳研究所で研究したいと考えている方、脳研への大学院進学を検討中の方へのメッセージをお願いいたします。
興味のあることがあったら是非踏み出して欲しいと思います。最初の一歩は勇気がいるかも知れませんが、自分に正直に一つ一つ選択していけば、道は続いていくと思います。
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