公立小松大学 保健医療学部 臨床工学科
北浦 弘樹 教授
インタビュー
北浦教授は2005年に本学医歯学総合研究科(システム脳生理学)を修了の後、2008年に本研究所病理学分野の助教、2019年に同分野特任准教授を経て、2022年より現在は公立小松大学保健医療学部臨床工学科教授としてご活躍中です。本研究所と関わりの深い北浦教授のこれまで・現在・今後のご研究についてお話を伺います。
脳研時代
脳研究所ではどのような研究をしていましたか。
大学院生として初めて脳研に入ったころは、システム脳生理学分野の澁木克栄先生のご指導の下、脳機能イメージングや電気生理学の研究を行っていました。具体的には、ラットの大脳皮質における神経回路網の可塑性について、パッチクランプ法を用いて電気生理学的に解析して博士論文としました。その後フラビン蛍光イメージング法を用いてin vivoでマウス体性感覚野における経験異存的な脳機能マップの再編について研究を進めました。大学院修了後は統合脳機能研究センターの五十嵐博中先生にご指導いただきマウスでのMRIを用いた脳機能イメージングに携わらせていただいたのちに、病理学分野の柿田明美先生のもとで、手術標本を用いたてんかん原性のイメージング解析を行いました。
これは脳研究所脳神経外科の藤井幸彦先生や大石誠先生、西新潟中央病院の福多真史先生のお力添えをいただきながら、世界初となるヒト脳組織におけるてんかん病態の光学的イメージング実験系を柿田先生はじめとする病理学分野の先生方の全面的なバックアップをいただいて立ち上げるというプロジェクトでした。脳神経外科との連携のもとに、切除されたばかりの脳組織から急性脳スライス標本を作製し、incubateすることで生体外においても詳細な神経活動記録を実際のてんかん焦点組織から取ることができます。それにより、てんかん焦点組織の病理学的な組織変化によって異なる機能的てんかんメカニズムがあることを明らかにし、報告することができました。
ヒトから動物、形態から機能、生理から病理、基礎から臨床まで広く脳に関する統合的な知識・技術を多方面に得られる環境は新潟大学脳研究所以外になく、これらを融合した研究を行うことができたことは私の中でかけがえのない財産になっています。
脳研時代
現在取り組んでいる研究について教えてください。
これまでのヒト脳組織を用いた研究成果と経験を生かして、発作原性の解析について研究を進めているところです。てんかんは病理学的に多様な組織変化を基盤とした「てんかん原性」を獲得した焦点組織に、さらになんらかの 内的・外的要因による「発作原性」が加わることで、「てんかん発作」が生じると一般に考えられています。すなわち、脳の器質的病変である「てんかん原性」を駆動するための、内的要因による「発作原性」メカニズムを明確にすることにより、なぜ突然てんかん発作が始まりどのように終息するのかという命題に挑んでいます。そのために動物モデルで個体を用いた新たな実験系を立ち上げているところです。新潟脳研でしかできない実際の焦点組織を用いたてんかんのgeneratorとしての機能解明と動物モデルでのAmplifier, Triggerとしての個体レベルでの発作原性解明を同時に進めることにより、確実なてんかん病態の理解と制御に繋がると考えています。
小松大にて
今後どのような研究をしていきたいですか。
てんかん患者では次いつ発作が来るかわからないため、社会参加に自ら制限を課してしまうことも多くあります。そのため様々な「てんかん原性」を有する患者に対して、的確に個々の「発作原性」を評価してそのリスクを把握しておくことは重要です。そこで患者自身の主観だけではなく、客観的見地からも発作リスクを評価することができれば、社会参加への障壁も低くなると考えられます。現在は臨床工学科という医学と電子工学の両方に携わることができる環境にあるため、研究を通じて将来的に発作リスクを簡便に評価できるウェアラブルデバイスの開発に繋げることを目指しています。