軸索変性を定量的に評価できる実験モデルの開発

2022年05月11日

概要

本研究所の杉江淳博士(准教授)と、新田陽平博士(特任助教)は、ドイツのDZNE研究所のGaia Tavosanis教授と共同研究を実施し、一定期間の連続的な光刺激に対して、ショウジョウバエ視神経軸索が、アポトーシスを伴わない進行性の変性をもたらすことを発見しました。これらの軸索はストレス下でもその構造を保ちますが、臨界点に到達すると、変性が始まります。重要なことに、視神経(R7)とそのシナプス後神経細胞(Dm8)の間のシナプス結合は軸索変性前に失われ、ヒト神経変性疾患の初期の特徴を再現しました。さらに、シナプス前軸索変性の開始には、細胞非自律的にシナプス後神経細胞が関与することを明らかにしました。

本研究成果は、2022511日(日本時間)、Journal of Neuroscience誌に掲載されました。

本研究成果のポイント

神経細胞は長期間活動し、その機能を維持します。加齢の過程や神経変性に至る疾患では、神経細胞の一部が破綻し、細胞死につながります。この臨界点は明らかではありませんでした。本研究ではショウジョウバエを用いて、この段階を系統的に記載できる実験モデルを開発しました。シナプスと軸索の消失は、変性に向かう初期の機能的に重要な事象です。ショウジョウバエ光受容体は、その神経軸索を脳へ投射し、規則的に配列されます。この規則的な分布パターンを利用して、散発的な軸索消失を研究するための実験システムを構築し、軸索変性の開始における非細胞自律活性調節の役割を明らかにしました。

杉江先生研究成果画像.png図.ショウジョウバエの視神経軸索
ショウジョウバエ複眼は、700-800の個眼が整列している。それぞれの個眼には8つのタイプの視神経細胞があり、
レチナ(網膜)から脳へ直接投射し、トポロジーを保ったまま綺麗に並び、軸索終末でシナプスを形成する。
図は、R7というタイプの視神経細胞の神経軸索(青色)とシナプス形成をする領域(緑色の部分)を示している。
本研究では、これら軸索終末の数を定量することによって、軸索変性の度合いをモニタリングできるようになった。

用語解説

シナプス:
神経細胞と神経細胞の間に形成される構造。シナプス前細胞から神経伝達物質が放出され、シナプス後細胞がそれを受容することによって、細胞間の情報伝達を担っている。

今後の展開

本研究で開発した実験モデルを利用して、神経変性疾患の初期病態において破綻する分子機構の発見に期待ができます。また、このモデルは、軸索変性の初期事象に関与する細胞間同士の影響を明らかにするために利用できます。シナプス前―シナプス後―グリア細胞間の相互作用がどのようにストレスに対処し、神経構造および機能を維持しているのか、より良い理解につながります。

論文情報

【掲載誌】 Journal of Neuroscience
【論文タイトル】 A quantitative model of sporadic axonal degeneration in the Drosophila visual system
【著者】

Richard M, Doubková K, Nitta Y, Kawai H, Sugie A*, Tavosanis G*. *co-corresponding author

公開論文はこちら▶【doi】 10.1523/JNEUROSCI.2115-21.2022.

研究分野

研究成果・実績
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