常染色体優性視神経萎縮症におけるOPA1の病理学的意義を解明するためのショウジョウバエモデル開発
2024年08月05日
概要
本研究所脳病態解析分野の杉江淳准教授と新田陽平特任助教、小坂二郎特任助教は、本学医歯学総合研究科眼科学分野の植木智志講師らとの共同研究により、常染色体優性視神経萎縮症 (DOA)注1のショウジョウバエ注2モデルを作製しました。DOAは、主にOPA1注3ミトコンドリアダイナミン様GTPase注4 (OPA1) 遺伝子の変異によって引き起こされる視神経節細胞およびその軸索の変性により進行性の失明をもたらす疾患です。OPA1はミトコンドリア内膜に存在するダイナミン様GTPaseをコードしています。DOAは眼の症状に加え、多臓器にわたる症状を呈することがあり(DOAプラス)、DOAプラスはGTPaseドメインの点突然変異によって生じることが多く、これらはドミナントネガティブ効果注5を持つとされています。しかし、GTPaseドメインの変異が必ずしもDOAプラスを引き起こすわけではありません。そのため、DOAとDOAプラスを区別する実験系が求められていました。この成果は、2024年7月30日にeLife誌に発表されました(10.7554/eLife.87880.2)。
研究の概要・成果
本研究では、ショウジョウバエのdOPA1遺伝子の機能喪失変異注6がDOAで観察される視神経変性の病態を模倣できることを発見しました。この変性はヒトのOPA1 (hOPA1) 遺伝子を発現させることで救済でき、hOPA1がショウジョウバエのシステムにおいてdOPA1と機能的に置き換え可能であることを示しました。一方で、これまでに同定された疾患変異はdOPA1欠損表現型を改善しないことが確認できました。この結果から、hOPA1の変異の病的意義が機能喪失型であることを検証できることがわかりました。さらに、dOPA1変異体の視神経にWTおよびDOAプラス変異型hOPA1を発現させることで、DOAプラス変異が救済を抑制することを観察し、hOPA1の機能喪失変異とドミナントネガティブ変異を区別することが可能となりました。
今後の展開
この研究により確立されたショウジョウバエモデルを用いて、さらに多くのhOPA1遺伝子変異の機能を解析することで、DOAとDOAプラスのメカニズムの解明が期待されます。これにより、個々の変異に対する最適な治療法の開発が進む可能性があります。また、このモデルは、新規治療薬のスクリーニングや、DOAの病態の進行を抑えるための新しい戦略の検証に役立つと考えられます。
研究成果の公表
本研究成果は、2024年7月30日にeLife誌に掲載されました。
論文タイトル | Drosophila model to clarify the pathological significance of OPA1 in autosomal dominant optic atrophy |
著者 | Yohei Nitta, Jiro Osaka, Ryuto Maki, Satoko Hakeda-Suzuki, Emiko Suzuki, Satoshi Ueki, Takashi Suzuki, Atsushi Sugie |
doi | 10.7554/eLife.87880.2 |
用語解説
- (注1)常染色体優性視神経萎縮症 (DOA): 視神経が徐々に変性する遺伝性疾患で、視力の低下を引き起こします。
- (注2)ショウジョウバエ:遺伝学の研究に広く利用されるモデル生物です。ショウジョウバエの遺伝子はヒトの遺伝子と多くの共通点があり、病気のメカニズム研究に役立ちます。
- (注3)OPA1: OPA1はミトコンドリアの機能に重要なタンパク質で、エネルギーの生成やミトコンドリアの形状維持に関与します。この遺伝子の変異がDOAの原因となります。
- (注4)GTPaseドメイン:GTPaseドメインは、GTPという分子を加水分解する酵素活性を持つタンパク質の部分です。この活性により、細胞内でのエネルギー供給や信号伝達が行われます。
- (注5)ドミナントネガティブ効果:一部の変異タンパク質が正常なタンパク質の機能を阻害する現象です。これにより、正常なタンパク質が十分に機能できなくなり、病気を引き起こすことがあります。
- (注6)機能喪失変異: 特定の遺伝子の機能が失われる変異です。このタイプの変異は、遺伝子が正常なタンパク質を作れなくなるため、疾患を引き起こすことがあります。