転写因子NF-YAが神経幹細胞の維持に必須であることを解明 -転写因子のスプライシングを介した新たな神経分化制御機構の提示
2024年01月17日
概要
新潟大学脳研究所脳病態解析分野の山中智行准教授、松井秀彰教授、及び同志社大学脳科学研究科認知記憶加齢部門の貫名信行教授らの研究グループは、テキサス大学、理化学研究所、順天堂大学との国際・国内共同研究のもと、転写因子(注1)NF-YAが神経幹細胞(注2)の増殖・維持に必須の役割を持っていることを明らかにしました。また、この機能は、NF-YA自体の選択的スプライシング(注3)という、これまでとは異なる機構によって制御されていることを見出しました。
本研究成果のポイント
- NF-YAをマウス胎児脳の神経幹細胞で欠損すると脳発達が著しく障害される。
- NF-YAは神経幹細胞の増殖・維持に必須である。
- NF-YAの神経幹細胞での機能はその選択的スプライシングによって制御される。
Ⅰ. 研究の背景
神経幹細胞は神経細胞を生み出す幹細胞ですが、その維持、増殖は、神経幹細胞に特異的に発現する転写因子(マスター因子)により制御されていることがわかっていました。しかしながら、どの細胞にも普遍的に発現するような転写因子(ユビキタス因子)もここに関わるか、またそうならどのように関わるかはまったくわかっていませんでした。
Ⅱ. 研究の概要・成果
ユビキタス因子の1つであるNF-YAは、NF-YB、NF-YCと3複合体を形成し、ゲノム領域のCCAATボックスに結合することで、様々な遺伝子の発現を制御しています。本研究では、マウス胎児脳の神経幹細胞でNF-YAを遺伝子破壊すると、増殖低下、アポトーシスとともに神経幹細胞が脱落し、脳形態形成が著しく障害されることを見出しました(図A)。詳細な解析から、神経幹細胞では、スプライシングにより3番目のエクソンが欠失した短いNF-YAが発現し、細胞増殖因子の発現を制御していること、一方、神経への分化と共に3番目のエクソンを含む長いNF-YAに置き換わり、増殖活性が低下することがわかりました(図B)。これらのことから、NF-YAが神経幹細胞の維持・生存に必須であることがわかるとともに、この機能はNF-YA自体の選択的スプライシングによって制御されていることが示唆されました。
Ⅲ. 今後の展開
以上のことから、神経幹細胞に特異的に発現するマスター因子だけではなく、細胞普遍的に発現するユビキタス因子でも、そのスプライシングを制御することで、神経幹細胞の増殖・生存に関わることが明らかとなりました。今後、スプライシング制御を含め詳細に解析することにより、脳神経発生・再生機序のさらなる理解につながることが期待されます。
Ⅳ. 研究成果の公表
本研究成果は、2024年1月8日、科学誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載されました。
論文タイトル | The Transcription factor NF-YA is Crucial for Neural Progenitor Maintenance during Brain Development |
著者 | Tomoyuki Yamanaka, Masaru Kurosawa, Aya Yoshida, Tomomi Shimogori, Akiko Hiyama, Sankar N. Maity, Nobutaka Hattori, Hideaki Matsui, Nobuyuki Nukina |
doi | doi.org/10.1016/j.jbc.2024.105629 |
Ⅴ. 謝辞
本研究は、基盤研究B、挑戦的研究(萌芽)等の科研費(18H02723, 17KT0131, 15K06762, 17H01564, 16H01345, 15H01567)、武田科学振興財団、住友財団、永井知覚科学振興財団、同志社大学赤ちゃん学研究センター、文部科学省教育研究組織改革関連プロジェクト(ブロードマン脳地図)などの支援を受けて行われました。
用語解説
(注1)転写因子:ゲノムDNA上の特定の配列を認識し結合することで、近傍の遺伝子の発現を制御するタンパク質。細胞種特異的なものや広範(ユビキタス)に発現するものなど、様々な種類がある。
(注2)神経幹細胞:自己複製能と多分化能を併せもった、未分化な細胞。胎児の脳では、初期は神経幹細胞が増殖・複製することで自らを増やし、後期は非対称に分裂することにより神経細胞を生み出していく。
(注3)選択的スプライシング:異なる遺伝子領域(エクソン)を用いることで、1つの遺伝子から様式の異なる複数のメッセンジャーRNAを生成する機構。