DHX9のヘテロ接合型機能喪失変異は神経発達障害と関連していることを発見

2023年06月29日

概要

 本研究所脳病態解析分野の杉江淳准教授と、新田陽平特任助教は、慶應義塾大学医学部の小崎健次郎教授らとの共同研究により、DHX9という遺伝子のヘテロ接合型機能喪失変異(注1)が神経発達障害と関連していることを明らかにしました。DExH-boxヘリカーゼ(注2)はRNAやDNAの構造を解くために必要な酵素であり、その中でも特にDHX16、DHX30、DHX34、およびDHX37のモノアレル変異体は既に神経発達障害と関連付けられています。DHX9はこれらの遺伝子と関連性が深く、この研究では、DHX9の新たな変異体が神経発達障害の一因である可能性を示しました。この成果は、2023年6月25日にEuropean Journal of Medical Genetics誌に掲載されました。

Ⅰ.研究成果のポイント

 短身、知的障害、および心筋緻密化障害を呈した患者からDHX9の新たなヘテロ接合de novoミスセンス変異体p.(Gly414Arg)(注3)(注4)を発見しました。この遺伝子変異体の病原性を評価するために、トランスジェニックハエとマウスのモデルを用いて実験を行いました。ハエでの実験では、野生型のDHX9タンパク質の過剰発現が視神経の軸索数の減少を引き起こし、一方で変異タンパク質の発現はそれほど顕著な効果は見られませんでした。これは、機能的なDHX9の過剰発現がハエの神経系に有害な影響を及ぼすことから、G414RとR1052Qは機能が喪失していることが示唆されます。マウスでの実験では、DHX9の遺伝子編集により体サイズが小さく、感情の反応が低下し、心電伝導異常が見られました。これらの結果から、DHX9の機能喪失変異のヘテロ接合性が新たな神経発達障害を引き起こす可能性があることが確認されました。


図.ハエを用いた新規DHX9変異の病的意義評価

(A) DHX9タンパク質の構造に含まれるドメインやモチーフ(灰色)における病原性変異体(赤い星)の模式図。 (B) ヒトDHX9の野生型(WT)、G414R変異、R1052Q変異を発現するハエの視神経軸索。各DHX9変異体を発現する軸索はヒトDHX9のWTを発現したものは変性し、G414RとR1052Qは変性しなかった。これは、機能的なDHX9WTの過剰発現がハエの神経系に有害な影響を及ぼすことから、G414RとR1052Qは機能が喪失していることが示唆される。Ymada et al., Eur. J. Med. Genet. 2023から引用(一部改変)

Ⅱ.今後の展開

 本研究は、DHX9の新たな変異体が神経発達障害の一因となる可能性を示しただけでなく、そのメカニズムの一端を解明しました。次のステップとしては、これらの変異体がどのようにして神経発達障害を引き起こすのか、また、どのような治療法が効果的であるかを解明するためのさらなる研究が必要となります。

Ⅲ.研究成果の公表

 本研究成果は、2023年6月25日にEuropean Journal of Medical Genetics誌に掲載されました。

【論文タイトル】

Heterozygous loss-of-function DHX9 variants are associated with neurodevelopmental disorders: Human genetic and experimental evidences

【著者】 Mamiko Yamada, Yohei Nitta, Tomoko Uehara, Hisato Suzuki, Fuyuki Miya, Toshiki Takenouchi, Masaru Tamura, Shinya Ayabe, Atsushi Yoshiki, Akiteru Maeno, Yumiko Saga, Tamio Furuse, Ikuko Yamada, Nobuhiko Okamoto, Kenjiro Kosaki, Atsushi Sugie
【doi】 10.1016/j.ejmg.2023.104804

用語解説

(注1)ヘテロ接合型機能喪失変異:遺伝子の片方のコピーが機能を失う変異。この状態でも、もう一方の正常な遺伝子コピーが存在するため、疾患状態には必ずしも繋がらないが、場合によっては疾患の原因となる。

(注2)DExH-boxヘリカーゼ:RNAやDNAの二重らせん構造をほどく酵素。

(注3)デノボ(de novo)変異:親がもたない新たな変異。

(注4)ミスセンス変異:遺伝子の一部の塩基配列が変化し、それによって異なるアミノ酸に置換される変異。

 

研究分野

研究成果・実績
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