神経軸索変性の度合いを評価する自動定量システムMeDUsAの開発

2023年01月11日

概要

 ショウジョウバエはヒト神経変性疾患を研究するための優れたモデル生物です。しかし、神経軸索(*1)の変性を直接観察し、それを自動的に定量化できる実験系がほぼありませんでした。そこで、本研究所の新田陽平博士(特任助教)と、杉江淳博士(准教授)は、エルピクセル株式会社研究開発本部の河合宏紀博士らと共同研究を実施し、深層学習(*2)と軸索を計測するツールを組み合わせたPythonベースのコンピュータプログラムMeDUsA (Method for the quantification of Degeneration Using fly Axons) を開発しました。このソフトウェアは、ショウジョウバエの視神経軸索の数を自動的に定量化することができます。このソフトウェアを用いて、神経変性疾患の代表的な原因遺伝子によってショウジョウバエの神経軸索もヒト疾患と同様に変性することを実証することができました。

研究成果のポイント

  • ショウジョウバエの視神経は神経細胞モデルとして、神経変性疾患の軸索変性の病理を模倣できる優れた実験系であることを実証しました。

  • MeDuSAの開発により、ショウジョウバエ視神経の軸索を迅速かつ正確に定量することに成功しました。

手動定量とMeDUsAによる神経軸索数の自動定量の比較.jpg図:手動定量とMeDUsAによる神経軸索数の自動定量の比較

(A-L) ショウジョウバエ視神経の軸索末端の切り取り操作および切り取った軸索末端の数をスポットとして検出する操作。
(M, N)手動定量と自動定量の比較。自動定量の正確性が示されている。

今後の展開

 MeDUsAを利用して、軸索への毒性に関わる遺伝子または薬物を特定するための探索実験や、ヒト遺伝子の新規変異の神経軸索における病理学的意義の検出など、軸索変性を観察することが必要な大規模な研究が可能になります。

研究成果の公表

 本研究成果は、202315日に、科学雑誌Human Molecular Genetics誌に発表されました。

【論文タイトル】 Direct evaluation of neuroaxonal degeneration with the causative genes of neurodegenerative diseases in drosophila using the automated axon quantification system, MeDUsA
【著者】 Yohei Nitta, Hiroki Kawai, Ryuto Maki, Jiro Osaka, Satoko Hakeda-Suzuki, Yoshitaka Nagai, Karolína Doubková, Tomoko Uehara, Kenji Watanabe, Kenjiro Kosaki, 
【doi】 10.1093/hmg/ddac307

用語解説

(*1)神経軸索:神経情報を隣接する神経細胞へ伝達するために、神経細胞の細胞体から伸びる突起。

(*2)深層学習:人間が実施するコンピュータ上の作業を、コンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつである。機械学習は、画像データなどを解析する方法のひとつで、例えば画像データをコンピュータが学習し、画像データに含まれているパターンやルールなどを自動で検出することができるようになる。本研究では、「神経軸索端のみを切り取る」「ドット状に軸索末端の数を数える」という、これまで研究者が手動で実施していた2つの作業を自動化した。

研究分野

研究成果・実績
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