クルクミン誘導体によるアミロイドβ凝集体の解毒
2022年02月16日
概要
アデュカヌマブ(*1)というアルツハイマー病の治療薬が最近FDAから承認されました。アデュカヌマブはアミロイドβ(*2)をターゲットとした抗体製剤であり、その臨床試験では、アミロイドβのプラークが有意に除去され、認知障害が改善されることが示されていました。しかし、抗体はその大きさから血液脳関門(*3)の透過性が制限され、有効性に影響する可能性があります。また、非常に高額であるという問題があります。
アデュカヌマブなどの抗体と比較して、低分子薬物は血液脳関門の透過効率が高く、経済的です。これらの点において、低分子薬物は長期的なアルツハイマー病の治療に適している可能性を秘めています。
本研究では、アミロイドβの凝集体を解離させるクルクミン(*4)誘導体を特定し、in vitro、神経芽細胞腫細胞、ショウジョウバエのアルツハイマーモデルでその効果が実証されました。
本研究は東京工業大学の中村浩之教授と本研究所脳病態解析分野の杉江淳准教授の共同研究によって行われました。その一部は、新潟大学脳研究所共同研究費補助金の助成によって実施されました。
本研究成果のポイント
クルクミン誘導体BおよびNは、in vitroおよび神経芽細胞腫細胞においてアミロイドβ凝集体を解離させることが明らかになりました。さらに両化合物は、アルツハイマー病のショウジョウバエモデルにおいてアミロイドβの毒性を解毒することも示されました。
アミロイドβの毒性はクルクミン誘導体を摂取することによって軽減される
今後の展開
特定したクルクミン誘導体BおよびNは、血液脳関門の透過性や経済的な観点から、アルツハイマー病の治療薬として臨床応用に可能性を秘めています。
研究成果の公表
本研究成果は、2022年2月3日(日本時間)、 Chemical Communicatins誌に掲載されました。
【論文タイトル】 | Detoxification of amyloid β fibrils by curcumin derivatives and their verification in a Drosophila Alzheimer's model |
【著者】 | Rohmad Yudi Utomo, Atsushi Sugie*, Satoshi Okada, Kazuki Miura, and Hiroyuki Nakamura* *責任著者 |
【doi】(公開論文はこちら▶) | 10.1039/d1cc07000b |
用語解説
(*1)アデュカヌマブ:アルツハイマー型認知症の治療剤。アルツハイマー病患者の脳内に存在するアミロイドβの凝集体を標的として、その蓄積を抑制するモノクローナル抗体です。アデュカヌマブは、アメリカにおける医療用途での使用が2021年6月に食品医薬品局 (FDA) によって承認されました。
(*2)アミロイドβ:アルツハイマー病患者の脳に認められるアミロイドプラークの主成分で、36~43アミノ酸からなるペプチド。アミロイド前駆体タンパク質 (APP) に由来するペプチドで、βセクレターゼおよびγセクレターゼによって切断され、生成されます。
(*3)血液脳関門:血液から脳組織への物質の移動を制限する仕組み。
(*4)クルクミン:ウコンなどに含まれる黄色のポリフェノール化合物。