ショウジョウバエを利用したミジンコのクリプトクロームの進化的および機能的分化の解析
2019年06月20日
概要
複眼の機能の一つとして必要な青色光受容体であるクリプトクローム(CRY)は、様々な種における概日リズムの入力に重要な役割を果たしますが、長い歴史において異なるいくつかのタイプに進化してきました。I型CRYは中枢神経における光受容体分子として機能するのに対し、II型CRYは概日リズムタンパク質の転写活性を直接調節します。また、他にもまだ機能が未知のままのタイプのCRYも存在しています。ミジンコDaphnia magna(D. magna)にはI型II型を含め、計四つのCRY遺伝子をゲノムに持っています(CRYA, CRYB, CRYC, CRYD)。しかしながら、遺伝子組換えミジンコの作製が困難な現状ではこれら4つの遺伝子機能を解析し、進化的な機能分化を推定することができませんでした。
本学超域学術院の新田陽平博士と杉江淳研究准教授は本学自然科学研究科の杉本健吉准教授らと共同で、遺伝子組換えが簡便で迅速に行えるショウジョウバエを利用して、ミジンコのCRYタンパク質の進化的および機能的分化を調査しました。ショウジョウバエの体内時計を司るニューロンでそれぞれ4つのタイプのD. magna CRYタンパク質を発現させ(図1)、タイプ別に細胞内局在の違いを明らかにしました(図2)。
図1. ミジンコのCRYをショウジョウバエ脳内で発現させるための概要
図2.ショウジョウバエ 時計ニューロンl-LNvにおけるミジンコCRYの細胞内局在パターン
(A)mycタグがついたCRYA, CRYB, CRYC, CRYDのl-LNvにおける細胞内局在。
(B)CRYA, CRYB, CRYC, CRYDの核と細胞質の局在の割合についての定量結果。
また、概日リズムの行動実験では、D. magna CRYがショウジョウバエの概日リズムシステムにおいて機能的に保存されていないことを明らかにしました(図3)。以上から、CRY遺伝子の複眼を持つ種間に存在する機能的多様性が示唆されました。
図3.活動モニターシステムを用いたショウジョウバエの活動記録
(A-E)ショウジョウバエCRYミュータントの遺伝学的背景でそれぞれショウジョウバエCRY、ミジンコCRYA、CRYB、CRYC、CRYDを時計ニューロンで発現させた状態での活動記録。
この研究成果は、Scientific Reportsに2019年6月20日に掲載されました。
■論文はこちら なお、本研究は新潟大学U-goグラントの研究助成を受けて遂行されました。
(図1--図3それぞれ当該論文の図を改変し転載)
研究分野
脳病態解析分野 杉江研究室