第55回新潟神経学 脳研セミナーを開催しました
2025年8月28日(木)から29日(金)の2日間にわたり、第55回新潟神経学脳研セミナーが開催されました。昨年に続き、講演会と研究室見学・体験を組み合わせた形式で実施され、学部生・大学院生から若手研究者まで多くの皆さまにご参加いただきました。

初日には、ゲノムリスク予測から損傷後回路再構築、プロテオーム/メディカルAI、アミロイド構造学、感染誘発性脳症まで、基礎と臨床をつなぐ多領域にわたる講演が行われました。菊地正隆先生からは、ビッグデータ解析を武器として脳病態のメカニズムに迫る試みが紹介され、アルツハイマー病を対象にポリジェニックリスクスコアや単一細胞・空間トランスクリプトーム解析を用いたリスク予測と病態解読の展望が示されました。続く上野将紀先生の講演では、脳損傷後に神経回路がどのように再構築されるのかについて、皮質脊髄路の再接続や神経・グリア由来分子の関与まで俯瞰し、回路再編を促す標的と方法論の見通しを紹介頂きました。
後半では、本学医学部の松本雅記先生より、発現量だけでなく翻訳後修飾・寿命・複合体形成などを同時に捉える「多軸的プロテオーム解析」の戦略と応用についてご講演いただき、さらに奥田修二郎先生からは、マイクロバイオーム・がんゲノム・病理画像AIなどオミクス横断のデータサイエンスが紹介され、大規模データ解析の実装例を共有頂きました。招待講演では、東京都医学総合研究所の樽谷愛理先生と佐久間啓先生をお招きし、異常型タウ/αシヌクレイン/TDP-43の疾患特異的折りたたみ構造とプリオン様伝播、構造多型に基づく疾患分類について、そして感染誘発性脳症(Infection-triggered encephalopathy syndromes: ITES)に関する最新の臨床・基礎知見が紹介され、病態解明と治療開発の最前線をご提示頂きました。
2日目には、脳研究所への進学を希望する大学生・大学院生向けに、7つの研究室における見学・体験コースが行われました。参加者からは、「脳サンプルの透明化を実物で見ることができ、最も印象に残った」「認知症への多様なアプローチが理解でき、設備が恵まれていると感じた」「UVライトで光るマウスが興味深かった」といった声が寄せられました。また、「研究室の多さと設備に圧倒され、大学院はここで研究したいと思った」といった進路に関わる感想も示されました。
(文責:新潟脳神経研究会企画委員長 田井中 一貴)