神経変性疾患の原因となる異常タンパク質を生体脳で画像化することに成功 ‐異常タンパク質「αシヌクレイン」病変を捉える PET 薬剤を産学連携で創出‐

2022年09月02日

概要

本研究所の島田斉博士(教授)、柿田明美博士(教授)、清水宏博士(准教授)は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部 樋口真人部長、エーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社との共同研究において、運動機能や自律神経機能に障害を引き起こす難病である多系統萎縮症の生体脳で、病気の原因と考えられる異常タンパク質「αシヌクレイン」病変を明瞭に画像化することに成功し、世界に先駆けて学術誌に報告しました。

本研究成果は、2022831日、Movement Disorders誌のオンライン版に電子公開されました。

本研究成果のポイント

・運動機能や自律神経機能に障害を引き起こす難病である多系統萎縮症 ¹)において、原因と考えられるタンパク質「αシヌクレイン²)」病変を、生体脳で明瞭に画像化することに成功し、世界で初めて学術誌に報告。
・産学共同体制「量子イメージング創薬アライアンス・脳とこころ³)」の下、製薬企業3社との同時連携によってαシヌクレイン病変を捉える放射性薬剤を開発し、陽電子断層撮影法(PET⁴)による高感度の可視化を実現。
・αシヌクレイン病変はパーキンソン病 ⁵)やレビー小体型認知症 ⁶)でも中心的な病変となることから、本技術は多様な神経難病の発症機構解明や、診断治療に大きく寄与することが期待。

多系統萎縮症患者と健常高齢者における α シヌクレイン蓄積画像の比較

用語解説

1)多系統萎縮症:パーキンソン症状(運動障害など)、ふらつき、排尿障害などの様々な症状をきたす病気です。以前は別々に捉えられていた複数の病気が、現在では多系統萎縮症と総称される一つの病気として扱われています。30 歳以降、多くは 40 歳以降に発症する方が多いと報告されています。
2)αシヌクレイン:パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などの患者において、脳内に蓄積することが知られています。脳内の神経細胞やグリア細胞の障害を引き起こすことにより、認知障害、運動障害などの様々な症状を発症します。
3) 量子イメージング創薬アライアンス・脳とこころ:量研が主宰する産学共同の研究開発体制で、精神神経疾患の治療薬開発において病態および薬効の物差しとなる画像バイオマーカーを、非臨床から臨床まで一気通貫で利用できる形で開発・活用することを主な目的としています。脳疾患創薬に関わる製薬企業8社(2022 年7月時
点)が会員として参入しています。
4)PET:Positron Emission Tomography の略称。日本語では、陽電子断層撮影法と呼びます。身体の中の生体分子の動きを外から見ることができる技術の一種です。特定の放射性同位元素を結合した PET 薬剤を患者に投与し、PET 薬剤より放射される陽電子に起因するガンマ線を検出することによって、体内の生体分子の局在や量などを測定できます。
5)パーキンソン病:50〜65 歳に発症する方が多く、手足の震えや体のこわばりなどのパーキンソン症状が出現する病気です。1000 人に1~1.5 人が罹患すると推定され、加齢とともに発病率が増加すると報告されています。
6)レビー小体型認知症:アルツハイマー病に次いで多い神経変性型認知症で、物忘れのみならず、手足の震えや体のこわばりなどのパーキンソン症状や幻視を伴うことが特徴です。
7)18F-SPAL-T-06:αシヌクレイン病変に強く結合する放射性薬剤で、18Fというラジオアイソトープで標識されています。この薬剤を静脈注射してPET検査を行うことにより、脳内のαシヌクレイン病変を画像化することが可能になります。(国際特許出願PCT/JP2021/030899)

今後の展開

本研究により、 ¹⁸F-SPAL-T-06 ⁷) が多系統萎縮症患者において、病型に応じた α シヌクレイン蓄積を高感度に可視化できることが示されました。本成果は、生体脳におけるαシヌクレインの可視化技術として、世界で初めての論文報告となります。本技術を通じて、多系統萎縮症における診断技術の確立、ひいては α シヌクレイン病変を標的とした根本的治療薬の開発に大きく寄与すると期待されます。さらに、我々は脳内の α シヌクレイン蓄積を特徴とするパーキンソン病やレビー小体型認知症患者を対象とした、¹⁸F-SPAL-T-06 の有効性の検討を行っています。

論文情報

【掲載誌】 Movement Disorders - Wiley Online Library
【論文タイトル】

High-contrast imaging of α-synuclein pathologies in living patients with multiple system atrophy

【著者】

Kiwamu Matsuoka, Maiko Ono, Yuhei Takado, Kosei Hirata, Hironobu Endo, Toshiyuki Ohfusa, Taichi Kojima, Takeshi Yamamoto, Tomohiro Onishi, Asumi Orihara, Kenji Tagai, Keisuke Takahata, Chie Seki, Hitoshi Shinotoh, Kazunori Kawamura, Hiroshi Shimizu, Hitoshi Shimada, Akiyoshi Kakita, Ming-Rong Zhang, Tetsuya Suhara, Makoto Higuchi

公開論文はこちら▶【doi】 https://doi.org/10.1002/mds.29186

関連リンク

国立研究開発法人 科学技術振興機構ウェブサイト掲載記事

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構プレスリリース記事


研究分野

研究成果・実績
このページの先頭へ戻る