小脳型進行性核上性麻痺(PSP-C)の画像所見の経時変化

2011年12月09日

概要

当科および病理学的教室では共同して,進行性核上性麻痺(PSP)では小脳症状を主徴とするサブタイプが存在することを報告してまいりました.今回,このような症例の画像所見の経時変化についてケースレポートにまとめました.金澤雅人先生に解説して頂きました.


Masato Kanazawa, Takayoshi Shimohata, Kotaro Endo, Ryoko Koike, Hitoshi Takahashi and Masatoyo Nishizawa.
A serial MRI study in a patient with progressive supranuclear palsy with cerebellar ataxia. Parkinsonism and Related Disorders: 10.1016/j.parkreldis.2011.11.011

進行性核上性麻痺(以下PSP)は,パーキンソン症状に加えて,核上性垂直性眼球運動麻痺,転倒,姿勢反射障害,認知障害を主徴とする.しかし,近年,すくみ足や純粋無動のみの症例,失行や他人の手兆候といった大脳皮質症状主体の症例など臨床所見の多様性が明らかになっている.2009年我々は,当科及び関連病院で診療し,当研究所病理学教室にて病理学的にPSPと診断した22例の臨床・病理所見を再度検討し,臨床病理学的多様性を確認し,さらに病初期から小脳失調を主徴とするPSP(PSP-C)が存在することを明らかにした(Mov Disorders 24; 1312-8, 2009).今回,病理学的にPSP-Cと診断した症例のMRI画像の経時変化の報告をした.
 症例は歩行時のふらつきを主訴にした発症時70歳代の男性.発症1年後の神経学的所見では,四肢・体幹失調を認めるもののMRIでは明らかな小脳・中脳萎縮の所見は認めなかった.その後,頻回に転倒するようになり,発症後2年のMRIでは,橋小脳槽の拡大,上小脳脚の萎縮を認めた.発症4年のMRIではさらに橋小脳槽の拡大は進行し,脳幹の小作り所見を認めた.病理学的に,歯状核の高度の変性とプルキンエ細胞内にタウ陽性構造物を認めた.
 欧米のPSP診断基準では,病初期からの小脳失調は除外項目である.しかし,欧米からも本症例同様に小脳性失調を呈するPSPが存在することが示されている.また,PSPでは小脳性の眼球運動障害を有することが報告され,PSPの小脳障害が近年,注目されている.PSPの診断は,有用なバイオマーカーがないため,臨床所見と画像所見が有効である.今回報告したPSP-C症例は,小脳半球の萎縮は目立たないものの,脳幹に比して小脳の小作り所見が経時的に進行していた.このことは本邦の既報(饗場ら)と同様であり,橋小脳槽拡大がPSP-Cと脊髄小脳変性症の鑑別のポイントになるかもしれない.今後,症例を蓄積し,確認を行う必要がある.

研究分野

研究成果・実績
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