多系統萎縮症の病態に関する英国との共同研究成果の公表
2012年04月09日
概要
多系統萎縮症の病態に関する英国との共同研究の論文が発表されました。小澤鉄太郎先生に解説していただきました。
多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)には、オリーブ橋小脳病変と線条体黒質病変の強弱に対応する臨床病理学的スペクトラムが存在し、Gilmanらの診断基準では、臨床的に小脳性運動失調の強いタイプをMSA with predominant cerebellar ataxia (MSA-C)、パーキンソン症状の強いタイプをMSA with predominant parkinsonism (MSA-P)と呼ぶことを提唱しています。
「MSA患者さんの集団におけるMSA-CとMSA-Pの相対的頻度は、地域や人種の違いによって異なるか?」 MSAの分子病態を解明するためには、まずこの疑問に答えることが必要と考えられています。
私たちは、ヨーロッパにおけるMSAの中心的な研究機関であるInstitute of Neurology, Queen Square(英国、ロンドン)との共同研究を進めることによって、この問題に答えるための努力を続けてきました。その研究成果はこれまで2つの論文(Brain. 2004 Dec;127(Pt 12):2657-71. Epub 2004 Oct 27.とJ Neurol Neurosurg Psychiatry. 2010 Nov;81(11):1253-5. Epub 2010 Jun 22.)に発表しましたが、今回ご紹介する論文ではそれらの結果を分かりやすくまとめて公表しました。私たちは、英国人のMSA症例(100例)と日本人のMSA症例(50例)の病理所見を比較したところ、オリーブ橋小脳病変が強いタイプ(臨床的にMSA-Cに相当する)の相対的頻度は、英国よりも日本の患者集団で明らかに高いことを発見しました。さらに私たちは、世界の各地域で50例以上のMSA患者を対象に行われた疫学研究の結果をreviewし、アジアからの報告では患者の大部分をMSA-Cが占め、ヨーロッパと北アメリカではMSA-Pの割合が大きいことを見出しました。すなわち私たちは、英国との共同研究を通じて、MSA-CとMSA-Pの相対的頻度は、地域や人種の違いによって異なる可能性を指摘しました。
今後は、この現象の背景にある遺伝学的要因と環境因子の検討が必要になると思われます。しかしながら、世界各国で行われているMSAの診療や研究において、MSA-CとMSA-Pに関する選択バイアスが存在する可能性も否定できませんので、今後も地道な研究が必要になると考えています。