論文紹介:多系統萎縮症における選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の効果
2012年05月14日
概要
多系統萎縮症の患者さんの合併症の1つである声帯外転麻痺に対する治療に関する論文が発表されました。小澤鉄太郎先生に解説していただきました。
多系統萎縮症における選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の効果
Maintaining glottic opening in multiple system atrophy: Efficacy of serotonergic therapy. Ozawa T, Sekiya K, Sekine Y, Shimohata T, Tomita M, Nakayama H, Aizawa N, Takeuchi R, Tokutake T, Katada S, Nishizawa M.
Mov Disord. 2012 Apr 19. doi: 10.1002/mds.24983.
多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の患者さんに合併する声帯外転麻痺に対して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が有効である可能性が報告されました。小澤鉄太郎が解説いたします。
以前、私たち新潟大学脳研究所の研究グループは、MSA症例の剖検脳を詳細に検討したところ、脳幹の尾側縫線核群におけるセロトニン神経細胞の脱落が極めて高度であり、その所見が生命予後を悪くする要因である可能性を報告しました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19429902)。それを踏まえ、私たちは、脳幹のセロトニン神経機能の低下がMSAの生命予後に大きく関わる可能性を念頭に置き、研究を続けておりました。とくに脳幹のセロトニン神経は疑核を介して声帯外転筋を興奮性に支配する点に注目し、MSAのセロトニン神経機能の低下と声帯外転麻痺との関連を検討しておりました。
私たちはこの度、MSA患者さん3例を詳細に検討しましたところ、声帯外転麻痺にたいしてSSRIが有効である可能性を見出し、この論文にてご報告させて頂きました。この機序については、SSRIが、MSA患者さんで低下傾向にあったセロトニン神経機能を助けたことにより、声帯外転筋への興奮性の支配が保たれた可能性を考えております。声帯外転麻痺は、夜間の気道狭窄(喘鳴)の原因となる重篤な合併症ですので、この3例で見られたSSRIの効果は、とても重要な発見と考えています。
また最近では、SSRIの神経保護効果に注目が集まっており、SSRIは対症療法に留まらず、さらに根本的な病態に対しても何らかの効果が期待されます。私たちは、今後もMSA患者さんでのSSRIの効果を確かめる研究を進める所存です。