論文紹介:多発性硬化症におけるフィンゴリモド治療と髄液CCR7発現T細胞動態の解析

2013年03月26日

概要

当科の神経免疫チームが, 多発性硬化症におけるフィンゴリモド治療と髄液CCR7発現T細胞動態の解析を論文として報告いたしました. 横関明子先生に解説をしていただきました.

Fingolimod(ジレニア(R), イムセラ(R))は2012年から投与可能となった多発性硬化症の新規治療薬です. 「経口薬」であることから、今後の多発性硬化症診療において魅力的な治療薬の一つと考えられています. Fingolimodはスフィンゴシン1-リン酸 (S1P) 受容体に対するアンタゴニストで、リンパ球を二次リンパ組織内に閉じ込める作用を持ち, 多発性硬化症におけるリンパ球の中枢神経への侵入を抑制すると考えられています. リンパ球の中でもメモリーT細胞は, CCR7陽性のセントラルメモリーとCCR7陰性のエフェクターメモリーに分類されます. 多発性硬化症患者さんの髄液中には, CCR7陽性のセントラルメモリー型が90%以上をしめていることが明らかにされています. FingolimodはCCR7陽性セントラルメモリーT細胞を二次リンパ組織に閉じ込めることで, 中枢神経への侵入を抑制し, 多発性硬化症の再発を抑制すると考えられています.
Fingolimod治療開始直後に, 末梢血中のリンパ球は速やかに低下しますが, 脳MRI造影病変数はゆっくりと改善をはじめ, 約半年以降に安定した再発抑制作用を発揮すると考えられています. 最近, fingolimod開始6週後に重篤な再発を来した症例が報告されました (Castrop E. et. al., Neurology 2012;78:928). しかしなぜfingolimod投与早期に多発性硬化症を再発することがあるのか, 末梢血や髄液の詳細なセントラルメモリーT細胞の動態解析はなされておりません.
 そこで我々はfingolimod導入早期に再発した多発性硬化症症例の臨床的・免疫学的リンパ球動態を明らかにすることを目的とし, フロサイトメーターを用いた末梢血・髄液リンパ球動態の解析を行いました. Fingolimod治療開始後, 再発例, 非再発例ともに, 末梢血ではリンパ球数, CD4陽性T細胞数の減少, CD4/8比の低下, CCR7陽性セントラルメモリーT細胞の減少を認めました. 一方, 髄液のCCR7陽性セントラルメモリーT細胞は非再発例では減少しているのに対し, 再発例では減少せず残存していました.
 近年, 多発性硬化症では髄膜にリンパ節類似濾胞構造が存在することが明らかとなっています. この髄膜に存在するリンパ節類似構造は中枢神経内でリンパ球のプライミング・増殖を含めた免疫反応のセンターとなり, 中枢神経の様々な免疫反応を誘導している可能性が指摘されています. すなわち中枢神経の外と内では免疫反応は隔絶される傾向があり, その結果としてオリゴクローナルバンドをはじめとした中枢神経に独自の免疫反応が形成されます. 今回, 我々が示した結果から, (1) fingolimodは治療早期に末梢血と髄液の免疫細胞に異なる作用, もしくは異なる時間的変化をもたらす可能性があること, (2) 血液のリンパ球, CCR7陽性セントラルメモリーT細胞はfingolimod治療中の疾患活動性の指標にならないこと, (3) むしろ髄液のCCR7陽性セントラルメモリーT細胞が疾患活動性の指標になる可能性があること, (4) fingolimod治療早期には再発に注意する必要があると考えられました. 今後, このような解析を通して, 多発性硬化症患者さん一人一人により最適な治療法を選択できることが期待されます.

Yokoseki A, Saji E, Arakawa M, Hokari M, Ishiguro T, Yanagimura F, Ishihara T, Okamoto K, Nishizawa M, Kawachi I. Relapse of multiple sclerosis in a patient retaining CCR7-expressing T cells in CSF under fingolimod therapy. Multiple Sclerosis Journal. 2013 Mar 21. Epub ahead of print. doi: 10.1177/1352458513481395.

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