論文紹介:アンギオポイエチン1はtPA治療に伴う脳出血・脳浮腫を抑制する

2014年06月19日

概要

 脳梗塞急性期の治療として,組織プラスミノゲンアクチベーターによる血栓溶解療法(tPA療法)が行われています. tPA療法は機能予後の大幅な改善が期待される一方で,治療可能時間を超えた場合,血液脳関門(blood brain barrier; BBB)の破綻による出血合併症や,BBBの透過性亢進による脳浮腫の増悪により予後の悪化を来す一面もあります. 当教室の脳虚血グループでは tPA療法によるこれらの副作用を抑制する方法として, 血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial cell growth factor; VEGF)抗体の作用について発表し,現在臨床応用のための準備をすすめています(Kanazawa et al. 2012).今回,さらに,血管新生因子であるアンギオポエチン-1(angiopoietin-1; Ang1)がtPA療法に伴う合併症を抑制することを明らかにしました.以下,川村邦雄先生の解説です.

Effects of angiopoietin-1 on hemorrhagic transformation and cerebral edema after tissue plasminogen activator treatment for ischemic stroke in rats.

Kawamura K, Takahashi T, Kanazawa M, Igarashi H, Nakada T, Nishizawa M, Shimohata T.
PLoS One. 2014 Jun 4;9(6):e98639. doi: 10.1371/journal.pone.0098639. eCollection 2014.

 Ang1は血管内皮細胞の生存や,血管リモデリング・安定化に関与し,脳虚血後のVEGFによるBBBの透過性亢進を抑制することが報告されています.このため,Ang1の血管の安定化作用,透過性亢進抑制作用が,tPA療法後の出血合併症や脳浮腫を抑制するという仮説を立て,検証を進めました.
 まず,ラット脳塞栓モデルを使用し,局所脳虚血後1時間でtPA療法を行ったtPA1h群,4時間後に行ったtPA4h群,tPA療法を行わない永久閉塞群(permanent middle cerebral artery occlusion; PMCAO)群,さらに手術を行わないSham群を作成し, Ang1発現の変化とAng1投与後の影響について検討しました.この結果,ラット正常脳組織において, 内在性Ang1は周皮細胞やアストロサイト,神経細胞で発現していますが,ウエスタンブロットでの解析では,脳虚血により内在性Ang1著明に減少することが分かりました.
 次にAng1を発現する血管数を,免疫組織化学的に検討してみると,出血性変化の少ないtPA1h群と比較して,出血を来しやすいtPA4h群では,有意に減少していることが分かりました.
さらに出血を来すtPA4群において,組換えAng1蛋白を静脈的に投与し,Ang1の作用を増強したところ, Ang1は血管周皮細胞に取り込まれ,かつ脳出血と脳浮腫を抑制することが確認できました.
 これらのことから,tPA療法に伴う出血性変化において, 内在性Ang1の発現低下が関与すること,およびAng1の経静脈的投与は,tPA療法後の脳出血と脳浮腫が抑制し,治療に応用できる可能性が示唆されました.引き続き,tPA療法の合併症を抑制する薬剤が臨床で使用できるよう研究を進めたいと思います.

 なお,本研究の成果が新潟日報に掲載されました.

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