統合失調症関連分子ニューレグリン1は、グルタミン酸神経活動依存的な放出調節を受けることを解明

2017年06月01日

概要

脳研究所分子神経生物学分野では、ニューレグリン1投与による統合失調症モデル動物の解析を進めています。しかし、神経活動と生体内ニューレグリン1の動態との関連性は不明でした。今回、当分野の岩倉百合子助教を代表とする研究グループは、中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸により、生体内のニューレグリン1がシェディングと呼ばれる切断プロセスを経て神経細胞から放出されることを明らかにしました(H29.3.28 PLoS Oneに掲載)。

大脳皮質及び海馬では、グルタミン酸刺激が、神経細胞に多く存在するニューレグリン1(NRG1-typeII)のシェディングと放出を促進しました。このシェディングは、切断酵素であるADAMsにより行われました。ニューレグリン1は神経栄養因子であり、神経細胞の発達や、グルタミン酸神経伝達に関与することが知られています。今回の研究結果は、ニューレグリン1と興奮性グルタミン酸神経伝達との相互調節メカニズムが、中枢神経の正常な発達や機能調節に寄与する可能性を示します。

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図1
ラット大脳皮質初代培養神経細胞における、グルタミン酸刺激によるニューレグリン1(NRG1)シェディングの促進。(A) タグ付きNRG1を遺伝子導入した細胞では、細胞表面にNRG1が検出されます(写真上:対照群)。しかし、グルタミン酸刺激により細胞表面での検出は減少します(写真下)。(B)グルタミン酸受容体作動薬(NMDA)により、培養神経細胞からのNRG1放出は増加します。また、この増加は、Cキナーゼ阻害剤やカルシウムキレート剤、ADAMs阻害剤によって阻害されます(左グラフ)。それに並行して、細胞でのADAMsの切断活性(シェディング活性)も変化します。NMDA刺激によりADAMs活性が増加します。そしてその活性は、Cキナーゼ阻害剤やカルシウムキレート剤により阻害されます(右グラフ)。

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図2
発達中のラット大脳皮質・海馬における、グルタミン酸神経伝達によるニューレグリン1(NRG1)シェディング調節モデル。興奮性シナプス終末からのグルタミン酸放出により、後シナプスのグルタミン酸受容体(NMDA型受容体:GluN、および、 カイニン酸型受容体:GluK)が活性化します。それによるシグナル分子Cキナーゼ(PKC)の活性化を介し、NRG1の切断酵素であるADAMsの酵素活性が促進されます。その結果、ADAMsによる膜貫通型タンパクであるNRG1(typeII)前駆体の細胞外部分の切断がおこり(シェディング)、細胞外へのNRG1放出が増加します。放出されたNRG1は受容体であるErbB4を活性化し、神経細胞の発達や機能調節を行うことが示唆されます。

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