本人を良く知る情報提供者からの情報は、アルツハイマー病の早期診断に有用である

2022年10月12日

概要

本研究所の遺伝子機能解析学分野 春日健作博士(助教)は、国際ワーキンググループに参加し、早期のアルツハイマー病における認知機能低下を効率的に検出するために、本人のみでなく、本人を良く知る情報提供者からの情報をあわせて評価することの有用性に関し、総説を発表しました。

本総説は2022104日に「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」誌に電子公開されました。

本研究論文のポイント

アルツハイマー病は、認知機能検査での異常(客観的な認知機能の低下)の検出に先行して、認知機能が正常な段階で自覚的な認知機能の低下を訴えることが知られています。しかし、自覚的な認知機能低下を訴える人たちすべてがアルツハイマー病ではないため、このような人たちの中からその後に認知機能が低下してくるであろう人たちを効率よく診断する必要があります。本人を良く知る家族・友人などの情報提供者からの情報は、アルツハイマー病に関連したバイオマーカーと相関し、早期のアルツハイマー病の診断および予後の予測に有用であることが示されています。そのため、本人の訴えに加え、本人を良く知る情報提供者からの情報を評価することが、より正確に早期のアルツハイマー病を診断するために有用と考えられます。
また、軽度認知障害の段階では、本人の認知機能の低下に対する訴えは病識の低下の影響で客観的な認知機能検査の結果と解離してきます。しかし、本人を良く知る情報提供者からの情報は、客観的な認知機能検査と強く相関します。そのため本人の訴えと情報提供者からの情報が解離している場合、その後の認知機能低下が進行することが示されています。
このように、本人だけでなく、本人を良く知る方への情報聴取が、認知機能予後を評価する上で重要と考えられます。

研究成果発表_脳研遺伝子_図_221011.jpg

用語解説

・アルツハイマー病:アルツハイマー病は認知症の原因として最も多い疾患で、脳内のAβとリン酸化タウの蓄積、および神経細胞の消失に特徴づけられます。アルツハイマー病は、認知正常ながらすでに脳内にAβが沈着している状態にはじまり、徐々にリン酸化タウの蓄積をともない、軽度認知障害を経て認知症に至ると考えられています。

・軽度認知障害:正常な状態と認知症の中間で、客観的な認知機能検査により認知機能の低下を認めるものの、日常生活は自立している状態を指します。

・バイオマーカー:体内の変化や病態の程度を指し示す物差しのことで、アミロイドPETおよび脳脊髄液内のAβは脳内のAβ沈着を、またタウPETおよび脳脊髄液内のリン酸化タウは脳内のタウ蓄積を反映するため、アルツハイマー病の生前診断に有用と考えられています。

論文情報

【掲載誌】 Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions
【論文タイトル】 The role of dyadic cognitive report and subjective cognitive decline in early ADRD clinical research and trials: Current knowledge, gaps, and recommendations
【著者】 Rachel L Nosheny, Rebecca Amariglio, Sietske AM Sikkes, Carol Van Hulle, Maria Aparecida Camargos Bicalho, N Maritza Dowling, Sonia Maria Dozzi Brucki, Zahinoor Ismail, Kensaku Kasuga, Elizabeth Kuhn, Katya Numbers, Anna Aaronson, Davide Vito Moretti, Arturo X Pereiro, Gonzalo Sánchez-Benavides, Allis F Sellek Rodríguez, Prabitha Urwyler, Kristina Zawaly, for the Dyadic Patterns of Subjective Reportworking group within the Subjective Cognitive Decline Professional Interest Area, Alzheimer's Association ISTAART
公開論文はこちら▶【doi】 https://doi.org/10.1002/trc2.12357

研究分野

研究成果・実績
このページの先頭へ戻る