脳脊髄液バイオマーカーにより日本人での生前のアルツハイマー病の有病率を明らかにし、認知機能の悪化予測への有用性を明らかにしました

2022年08月22日

概要

本研究所の春日健作博士(助教)、池内健博士(教授)は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の菊地正隆博士(特任准教授)らと共に、日本人アルツハイマー病コホートにおける脳脊髄液バイオマーカーの解析結果を発表しました。

脳脊髄液内のアルツハイマー病に関連した蛋白質を解析することで、生前のアルツハイマー病の有病率を明らかにし、その後 3 年間の認知機能の悪化、ならび認知症の発症を予測できることを報告しました。

本研究成果は、2022810日、BMJ Neurology Open誌に電子公開されました。

本研究成果のポイント

J-ADNI研究に参加された認知正常、軽度認知障害、およびアルツハイマー型認知症の方々の脳脊髄液を解析し、「アミロイドβAβ)の沈着」、「リン酸化タウの蓄積」、「神経細胞の消失」のそれぞれの有無により参加者を分類しました。
①アルツハイマー型認知症と診断されていた人の4割弱はアルツハイマー病ではないこと、②認知正常の人の約1割はすでに脳内にアルツハイマー病を有していること、③Aβの沈着を認めた人は、認めなかった人にくらべ、3年間の追跡期間中の認知機能低下が速く、認知症の発症が多いことを明らかにしました。

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用語解説

・アルツハイマー病:アルツハイマー病は認知症の原因として最も多い疾患で、脳内のAβとリン酸化タウの蓄積、および神経細胞の消失に特徴づけられます。アルツハイマー病は、認知正常ながらすでに脳内にAβが沈着している状態にはじまり、徐々にリン酸化タウの蓄積をともない、軽度認知障害を経て認知症に至ると考えられています。
・バイオマーカー:体内の変化や病態の程度を指し示す物差しのことで、脳脊髄液内のAβは脳内のAβ沈着、リン酸化タウはタウ蓄積、総タウとニューロフィラメント軽鎖は神経細胞の消失をそれぞれ反映すると考えられています。
J-ADNI研究: Japanese Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiativeの略で、全国38の臨床機関による共同研究。認知正常、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症の方々に参加いただき、臨床症状、脳画像、脳脊髄液バイオマーカーなどの縦断的変化を追跡する研究。

今後の展開

脳脊髄液バイオマーカーを日常診療に活用することで、アルツハイマー型認知症のより正確な診断が可能になることが期待されるとともに、軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への進行を予測し、効率よく治療・ケアにつなげられると考えられます。
さらに、認知正常の人の中から超早期のアルツハイマー病の人を検出し、臨床試験へ組み入れることが可能になると考えられます。

論文情報

【掲載誌】 BMJ Neurology Open
【論文タイトル】

Different AT(N) profiles and clinical progression classified by two different N markers using total tau and neurofilament light chain in cerebrospinal fluid

【著者】

Kensaku Kasuga, Masataka Kikuchi, Tamao Tsukie, Kazushi Suzuki, Ryoko Ihara, Atsushi Iwata, Norikazu Hara, Akinori Miyashita, Ryozo Kuwano, Takeshi Iwatsubo and Takeshi Ikeuchi. the Japanese Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative

公開論文はこちら▶【doi】 10.1136/bmjno-2022-000321

研究分野

研究成果・実績
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