マーモセットで無侵襲の32チャンネル脳波記録に世界で初めて成功

2022年07月11日

概要

本研究所の伊藤浩介博士(准教授)、五十嵐博中博士(教授)は、京都大学ヒト行動進化研究センターの中村克樹博士(教授)らと共に、覚醒したコモンマーモセットで非侵襲的に脳波や誘発電位を記録するための新しい電極設置法である「ディップイン電極」法(英文)を発表しました。

頭皮上から記録する脳波は、脳内の電気活動を無侵襲で観察できる唯一の手段であり、ヒトはもちろん、サルなどの動物実験においても利点の多い脳機能計測法です。ただ、神経科学において重要な実験動物である小型霊長類のコモンマーモセットは頭部が小さく、従来の方法での脳波記録は仮に1、2チャンネルであっても困難で、これまでひとつも成功例はありませんでした。
この問題を解決するため、従来の発想にとらわれない新しい電極設置法を考案し、マーモセットの無侵襲脳波記録に世界で初めて成功しました。

本研究成果は、2022年6月、Neuroimage:Reports誌に電子公開されました。

本研究論文のポイント

この新しい方法では、電極間距離が6mmという高密度での脳波記録が可能です。これにより、直径数センチほどのマーモセットの頭部で32チャンネルの脳波記録が可能なことを実証しました。
なお、この方法は、マーモセットだけでなく、大小問わず他の動物にも適用可能です。例えば我々は、マカクザルでもこの方法での脳波記録に成功しています。この研究により、さまざまな動物における、無侵襲脳波記録の可能性が広がりました。

マーモセット脳波.png図:マーモセットの無侵襲脳波記録

左上:脳波記録の際の動物の保定
右上:聴覚誘発電位の波形
左下:32チャンネル電極配置
右下:聴覚誘発電位の頭皮上分布(トポグラフィー)

用語解説

脳波記録のチャンネル数:脳波を記録する電極の数。32チャンネルの脳波計測では、頭皮上の32カ所から同時に脳活動を記録できる。

今後の展開

この脳波記録法を利用すると、ヒトとサルのように種が違っても、全く同じ指標で脳機能を比較評価することができます。これは、大きく2種類の研究に役立ちます。
一つは、(例えば統合失調症などの)精神神経疾患の脳メカニズムを調べ、治療法を開発する研究です。こうした疾患でどのような脳波異常が見られるかは、ヒトでよく調べられています。これと同じ異常をサルなどの実験動物で観察することで、疾患の機序を調べたり、新しい治療法の効果を確認したりできます。
もう一つは、脳の進化を調べる基礎研究です。ヒトとサルで、例えば音を聴いたときの脳波がどのように違うのか調べることで、言語や音楽のような複雑な脳機能をヒトがどのように獲得したのか、脳の進化の謎に迫ることが期待できます。

論文情報

【掲載誌】 Neuroimage Reports
【論文タイトル】 A novel "dip-in electrode" method for electrode application to record noninvasive scalp electroencephalograms and evoked potentials in an awake common marmoset
【著者】 Kosuke Itoh, Naho Konoike, Haruhiko Iwaoki, Hironaka Igarashi & Katsuki Nakamura
公開論文はこちら▶【doi】 10.1016/j.ynirp.2022.100116

研究分野

研究成果・実績
このページの先頭へ戻る