ゲノム編集による遺伝子改変動物作製技術の改良に成功    

2023年02月14日

概要

本研究所 モデル動物開発分野の中務胞 助教(2021年当時)、夏目里恵 技術専門職員、阿部学 准教授は、ゲノム編集による遺伝子改変動物作製技術を改良して、約3 kbまでの長さの外来遺伝子を正確に標的遺伝子座に挿入(ノックイン)したマウスおよびラットを極めて簡便に作製することに成功しました。

本研究成果は、2023年2月9日(日本時間)、Scientific Reportsに掲載されました。

Ⅰ.研究成果のポイント

  • AAVが電気穿孔により細胞核まで物理的に移行してドナーDNAとして機能しうるのではないかと考え、ゲノム編集試薬にドナーDNAとなるAAV1ベクターを加えて共培養の時間をおかずに生体外および生体の卵管内にてマウス受精卵に電気穿孔処置をおこなったところ、確かにノックインマウス受精卵および個体が得られました。
  • 受精卵への感染性が極めて低いセロタイプであるAAV2およびAAV5ベクターを用いた場合でもノックインマウス受精卵を得ることができたため、AAVが感染によらず電気穿孔だけで核内に到達しドナーDNAとして機能した可能性が強く示唆されました。
  • ラットにおいても同様に生体の卵管内にて電気穿孔処置を行い、約3 kbの長さの外来遺伝子をノックインできることが確認されました。

Ⅱ.研究の背景

ゲノム編集技術により遺伝子改変動物作製を可能とする卵管内での初期胚への電気穿孔法(GONAD法(*1))は、その簡便性と作製効率において非常に優れた方法です。相同組換えによる任意の遺伝子座への遺伝子ノックイン動物についても作製可能であることが示されていましたが、その長さは約1 kbまでという制限がありました。一方で、ドナーDNA(*2)としてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが機能することは広く知られていましたが、AAVを感染させるため受精卵と数時間〜1日程度の共培養が必要であり、手技的に生体の卵管内での電気穿孔法への適用は困難であると予想されていました。

230209モデル動物阿部先生研究成果.jpg図:a) ドナーDNAとして作製されたAAVベクターの模式図。マウスRosa26遺伝子座に緑色蛍光タンパクEGFP発現カセットをノックインするように構築した。
b)体外での電気穿孔処置により受精卵の1つ(左端)にEGFP発現カセットが挿入され、緑色蛍光が観察された。
c)出産直後のマウス。2匹は全身に緑色蛍光を発し、Rosa26遺伝子座に正確にノックインされていることが確認された。

Ⅲ.今後の展開

この技術を用いることで、精巧な遺伝子改変マウス/ラットの作製がさらに容易になり、生命科学研究の加速化に大きく貢献するものと思われます。特にノックインラット作製の難易度がより下がり、これまで比較的困難であった病態モデルラット等の開発に重要な技術となることが考えられます。また、この技術は3Rの原則(*3)にも叶うものであり、さらに発生工学的技術が適用困難であった動物種にも用いることができる可能性があることから、他の齧歯類、中型・大型動物やマーモセット等の霊長類への適用も期待されます。

Ⅳ.研究成果の公表

【論文タイトル】

A novel technique for large-fragment knock-in animal production without ex vivo handling of zygotes

【著者】
Manabu Abe*'#, Ena Nakatsukasa#, Rie Natsume#, Shun Hamada, Kenji Sakimura, Ayako M. Watabe, and Toshihisa Ohtsuka(* 責任著者、# 共同筆頭著者)
【doi】 10.1038/s41598-023-29468-1

Ⅴ.本研究の支援

本研究はJSPS科研費17K01972(基盤研究(C))、18KK0458(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))、16H06276(AdAMS)およびAMED Brain/MINDS JP22dm0207081の助成を受け、東京慈恵医科大学 渡部文子 教授および山梨大学 浜田駿 助教、大塚稔久 教授との共同研究にて実施されました。

用語解説

(*1)GONAD法:東海大学 大塚正人 教授らが中心となり開発された、受精卵を体外に取り出すことなく簡便に遺伝子改変動物を作製できる非常に優れた方法。現在は効率等をさらに向上させたi-GONAD法が主流となっており、動物作製の経験の無かった研究者にも広く普及している。
(*2)ドナーDNA:相同組換えによって任意のDNA配列を内在ゲノムDNA内に移行、挿入させるためのDNA分子。配列の長さが1 kb程度であれば比較的小型の蛍光タンパク遺伝子などに制限されるが、3 kb程度であればより大きな遺伝子や遺伝子発現に要するプロモーター等も加えた遺伝子発現カセットの挿入もできるため、より精巧な遺伝子改変が可能になると言える。
(*3)3Rの原則
動物実験の基本理念である使用数の削減(Reduction)、代替法の利用(Replacement)、苦痛の軽減(Refinement)の頭文字に由来する。GONAD法を用いることで特に使用数の削減に寄与できる。

研究分野

研究成果・実績
このページの先頭へ戻る