ALSの予後に関わる遺伝的要因を発見 ―TAF15遺伝子の挿入・欠失変異が生存期間と関連―
2026年10月05日
本研究成果のポイント
- ALSの進行には個人差がありますが、その理由はまだ十分に解明されていません。
- 137例の孤発性ALS剖検例を解析した結果、TAF15遺伝子(注1)のエクソン15に挿入・欠失変異(注2)(TAF15-15 indels)をもつ患者群では、生存期間が短いことが分かりました。
- コンピューターでのシミュレーションにより、変異型TAF15タンパク質が凝縮・凝集しやすくなる可能性が示されました。
- TAF15-15 indelsは、ALSの予後予測や治療標的研究の候補になると期待されます。
概要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋肉を動かす神経が障害される難病です。病気の進行には大きな個人差がありますが、その理由はまだ十分に解明されていません。
新潟大学脳研究所脳神経内科学分野の畠野雄也特任助教、脳資源科学分野の他田真理教授、病理学分野の柿田明美教授、脳神経内科学分野の小野寺理教授、石原智彦准教授らの研究グループは病理解剖で診断を確認した孤発性ALS 137例を解析しました。その結果9例にTAF15遺伝子エクソン15の挿入・欠失(TAF15-15 indels)変異を認め、この変異をもつ群では生存期間が短いことを見いだしました。さらに、コンピューターシミュレーションにより、TAF15-15 indels変異がTAF15タンパク質の凝集しやすさを高める可能性が示されました。本研究成果はALSの予後予測や治療標的の研究につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年10月1日、European Journal of Human Geneticsに掲載されました。
Ⅰ.研究の背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動をつかさどる神経細胞が徐々に失われ、手足や呼吸、嚥下などに関わる筋力が低下する神経難病です。発症後の経過には大きな個人差があり、その予後には発症年齢や発症部位だけでなく、遺伝的背景も関与すると考えられています。
ALSの多くは明らかな家族歴のない孤発性ALSですが、その一部ではALS関連遺伝子に頻度の低い変異がみつかります。一方、ALSには特異的な画像検査や血液・髄液検査がなく、生前の診断では類似疾患を完全に除外することが難しい場合があります。また、生存中の患者さんを対象とした研究では最終的な病気の経過を把握できないこともあり、遺伝子変異と予後との関係を正確に評価するうえで課題となっていました。そこで本研究では、病理解剖によってTDP-43タンパク質(注3)の異常蓄積を確認し、ALSの診断が確定した症例を対象にしました。全例で発症から死亡または持続的人工呼吸器導入までの期間を確認し、遺伝的背景と予後との関係を検討しました。
Ⅱ.研究の概要・成果
1978年から2019年までに新潟大学脳研究所で病理学的にALSと確認された、家族歴のない137例についてエクソーム解析を行いました。38のALS関連遺伝子を調べた結果、27例に計31個の希少変異を認めました。特に注目されたのは、TAF15遺伝子のエクソン15に存在する挿入・欠失変異(TAF15-15 indels)です。この領域は、短い配列が繰り返される複雑な構造をもちます。137例中9例に5種類のTAF15-15 indelsを認めました。
ALS関連遺伝子に希少変異を認めなかった110例の生存期間中央値は28.5か月であったのに対し、TAF15-15 indelsをもつ9例では15.0か月であり、有意に短いことが分かりました(図)。発症年齢、性別、発症年、初発症状を考慮した解析でも、この関連は維持されました。また、タンパク質の相分離(注4)を予測するLASSIシミュレーションを行ったところ、TAF15-15 indelsによってTAF15タンパク質同士の相互作用が強まり、凝縮体を形成しやすくなる可能性が示されました。この性質が運動神経細胞の変性を促進する可能性が考えられます。
独立した患者群として、海外のALSコホートであるAnswer ALSの468例についても解析しました。その結果12例にTAF15-15 indelsを認めました。これらの変異をもつ群では機能低下が速い傾向が見られましたが、統計的な有意差には達しませんでした。
Ⅲ.今後の展開
本研究から、TAF15-15 indelsは、ALSの進行や予後に影響する「予後修飾因子」候補と考えられます。将来的には遺伝情報を用いたより精密な予後予測や臨床試験の層別化に役立つ可能性があります。
また、TAF15タンパク質の凝縮・凝集の変化がALSの進行に関与することが確認されれば、新たな治療標的につながる可能性があります。ただし、本研究は国内単施設の137例を対象とした研究で、個々の変異の影響や分子機序は十分に解明されていません。またTAF15-15 indelsはALSではない対照群でも認められています。今後は、より大規模で多様な集団による検証と、細胞・動物モデルを用いた機能解析が必要です。
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2026年10月1日、科学誌「European Journal of Human Genetics」に掲載されました。
| 論文タイトル | Insertion or deletion variants in TAF15 exon 15 are genetic factors impacting the prognosis of amyotrophic lateral sclerosis in a Japanese cohort |
| 著者 | Yuya Hatano, Tomohiko Ishihara, Mari Tada, Yutong Li, Sachiko Hirokawa, Masahiro Uemura, Shoichiro Ando, Akio Yokoseki, Akiyoshi Kakita, Osamu Onodera |
| doi | 10.1038/s41431-026-02249-w |
▸ プレスリリース
Ⅴ.謝辞
本研究のために病理解剖と試料の研究利用にご同意くださった患者さんとご家族、ならびに診療と病理解剖にご協力くださった医療関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
また、本研究は、椿記念財団研究助成(畠野雄也)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)(課題番号:21K07272および24K10506[石原智彦]、23K14771[畠野雄也])、AMED-SICORPプログラム(課題番号:JP22jm0210097[柿田明美])、AMEDムーンショット型研究開発事業(課題番号:JP24zf0127012[柿田明美])、JSPS J-PEAKSプログラム(課題番号:JPJS00420240016)、および厚生労働省 難治性疾患政策研究事業(課題番号:JPMH23FC1008[小野寺理および柿田明美])の支援を受けて実施されました。
用語解説
- (注1)TAF15遺伝子:RNAと結合するタンパク質の一つ: TATA-box binding protein associated factor 15(TAF15)をつくる遺伝子です。TAF15タンパク質は、DNAやRNAに結合し、遺伝情報の読み取り(転写)や、つくられたRNAの切り貼り(スプライシング)を調節するタンパク質です。
- (注2)挿入・欠失変異(indel):DNA配列の一部が加わる、または失われる変化です。
- (注3)TDP-43タンパク質:神経細胞の中で働くタンパク質の一つです。ALSの多くでは、このTDP-43が通常とは異なる形で神経細胞の中にたまることが知られています。
- (注4)相分離:細胞内にあるタンパク質などが互いに集まり、水の中に油滴ができるように、周囲とは異なる小さな集まりをつくる現象です。この状態が過度に進むと、タンパク質の異常な凝集につながる可能性があります。

