APOE遺伝型によってアルツハイマー病に対する遺伝的要因の影響が異なることを発見-個々の遺伝的背景を考慮した治療法開発への手がかり-

2026年09月25日

本研究成果のポイント

  • APOEの遺伝型で層別化した解析で25のゲノム関連領域を検出し、このうち6領域を新たな関連領域として報告しました。
  • 一部のバリアント(注1)では、アルツハイマー病との関連の強さがAPOE ε4の有無によって異なることを示しました。
  • DDHD1付近のバリアントはε4保有群でオッズ比(注2)の低下と関連し、新たな病態研究の手がかりとなりました。

概要

 新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野の菊地正隆特任准教授、宮下哲典准教授、池内健教授らの研究グループは、デンマークCopenhagen University HospitalのRuth Frikke-Schmidt教授、フランスInstitut Pasteur de LilleのJean-Charles Lambert教授らとともに、アルツハイマー病の重要な遺伝的危険因子であるAPOE遺伝子(注3)の遺伝型ごとにゲノム情報を解析し、特定の遺伝子のバリアントとアルツハイマー病との関連の強さが、APOEの遺伝型によって異なることを明らかにしました。

 ヨーロッパ祖先集団の大規模研究の解析結果を統合するとともに、日本を含む東アジア集団でも評価した結果、APOEの遺伝型に応じて異なる作用を有する新たな関連領域を見いだしました。特に、脂質の代謝に関わるDDHD1遺伝子付近のバリアントは、APOE ε4を持つ群でアルツハイマー病のオッズ比が減弱し、防御的に作用していました。

 今回の成果は、APOEの型によってアルツハイマー病の背景にある遺伝子の作用が異なる可能性を示しています。今後、遺伝的背景を考慮した病態の理解や、APOE遺伝型に応じた治療法の開発に向けた研究へ発展することが期待されます。

Ⅰ.研究の背景

 アルツハイマー病(AD)の発症には、加齢や環境要因に加え、生まれ持った遺伝的要因が関わっています。APOE遺伝子には主にε2、ε3、ε4というアレル(対立遺伝子)があり、ε4はADの発症リスク上昇と関連することが知られています。

 これまでにADに関連する多くのバリアントが見つかっていますが、その影響がAPOEのアレルによってどのように異なるかは、十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、2つのAPOEアレルの組み合わせである遺伝型により層別化を行い、ゲノムワイド関連解析(GWAS、注4)を行いました。

 

Ⅱ.研究の概要と成果

 研究グループは、ヨーロッパ祖先集団の8つの研究の解析結果を統合しメタ解析(注5)を行いました。主にε3/ε3群と、ε3/ε4またはε4/ε4からなるε4保有群を比較するとともに、ε2を持つ群などを解析しました。

 その結果、ε3/ε3群とε4保有群のいずれか、または両方で、25のゲノム領域がアルツハイマー病と関連しました。ε4保有群においてHP1BP3、PTPRC、DDHD1領域の新たな関連を、ε3/ε3群ではSLC50A1、NPAS3、CHST9領域で新たな関連を認めました。

 さらに群間の効果差を検定したところ、SLC50A1やNPAS3、SHARPINの特定のバリアントでは、ε3/ε3群で認められるリスクとの関連がε4保有群では減弱していました。一方、BIN1、HLA-DRA、CLUの特定のバリアントではε4保有群でリスクとの関連が増強していました(図1)。

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図1. APOEの遺伝型によって異なるアルツハイマー病の遺伝的関連を示す模式図

DDHD1領域のバリアントに注目

 DDHD1付近のバリアントrs10131116のCアレルは、ε4保有群でアルツハイマー病のオッズ比の低下と関連しました(1コピー当たりのオッズ比0.93、95%信頼区間0.90-0.95)。ε3/ε3群では類似の保護的な関連は認められず、群間の効果差も統計的に支持されました(図2)。DDHD1は脂質やリン脂質の代謝に関わる遺伝子です。このバリアントは脳組織におけるDDHD1の発現低下と関連しており、アルツハイマー病・病態への関与が注目されます。ただし、DDHD1の働きを抑えることで治療につながるか否かは、今後の課題になります。

日本を含む東アジア集団での検証

 日本・中国・韓国を含む東アジア集団においても関連を評価しました(図2)。HLA-DRAでは東アジアのε4保有群でもリスク上昇との関連が認められました。DDHD1では類似の防御的な作用を示唆する傾向が見られましたが、東アジア集団での関連は統計的に有意ではなく、より大規模な集団での検証が必要です。

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図2.APOEの遺伝型による遺伝的バリアントの影響の違いを東アジアと欧州で比較

HLA-DRAとDDHD1の代表的な遺伝的バリアントについて、アルツハイマー病との関連をAPOEの遺伝型別に示す。点はオッズ比、横線は95%信頼区間、縦の破線はオッズ比1を示す。図は論文に記載の統計量に基づき作図した。

Ⅲ.今後の展開

 今後はDDHD1などのAPOE遺伝型依存的な関連領域が、どの細胞でどのようにアルツハイマー病の病態に関わるかを検証する必要があります。また、より大規模で多様な祖先集団を対象にした研究を進める必要があります。今回の研究は、遺伝的背景を考慮した治療標的の探索や、将来の臨床試験における遺伝情報を基盤にした層別化に役立つことが期待されます。

Ⅳ.研究成果の公表

 本研究成果は、2026年9月14日(ロンドン時間)、科学誌「Nature Genetics」に掲載されました。

論文タイトル APOE-stratified genome-wide association analyses provide insights into the genetic etiology of Alzheimers's disease
著者

Jesper Qvist Thomassen、Hampton Leonard、Brittany Ulms、Benjamin Grenier-Boley、Sami Heikkinen、Pablo Garcia-González、...、Masataka Kikuchi、...、Akinori Miyashita、...、Takeshi Ikeuchi、...、Ruth Frikke-Schmidt

doi 10.1038/s41588-026-02713-9

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Ⅴ.謝辞

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業(課題番号:JP24dk0207060, JP21dk0207045)の支援を受けて行われました。

用語解説

  • (注1)遺伝的バリアント:人によって異なるDNA配列の違いです。一部は、疾患のなりやすさや遺伝子の働き方と関連します。
  • (注2)オッズ比:ある事象が起こる確率を、起こらない確率で割った値です。オッズ比は、比較する2つの群のオッズの比を表します。オッズ比0.93はオッズが約7%低いことを示し、発症確率が7ポイント下がることを意味しません。
  • (注3)APOE遺伝子:アポリポタンパク質Eをつくる遺伝子で、脂質の運搬などに関わります。主にε2、ε3、ε4というアレルがあり、父母から一つずつ受け継ぎ、その組み合わせを遺伝型と呼びます。本研究のε4保有群はε3/ε4の遺伝型またはε4/ε4の遺伝型を保有する群を示します。
  • (注4)ゲノムワイド関連解析(GWAS):ゲノム全体にわたる多数の遺伝的バリアントを調べ、疾患の有無などとの関連を網羅的に評価する方法です。
  • (注5)メタアナリシス:複数の研究で得られた統計解析の結果を統合し、全体としての関連を評価する方法です。

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研究成果・実績
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