脳の老廃物排出システムを薬で活性化するとタウ病理が抑制 ―アルツハイマー病などタウオパチーの新たな治療戦略となる可能性―

2026年08月07日

発表のポイント

  • アルツハイマー病などで蓄積する異常タウタンパク質に対し、脳の老廃物排出機構「グリアリンパ系(グリンパティックシステム)」を薬剤で活性化すると、タウ蓄積や神経細胞の脱落、炎症反応が改善することをマウスを用いた研究により明らかにしました。
  • グリアリンパ系をアクアポリン4に作用する薬剤で活性化することでタウ病理を改善できることを世界で初めて示しました。
  • 現在有効な治療法が限られているタウ病理に対し、老廃物排出機構という新たな治療標的を提示しました。今後、アクアポリン4を標的とした薬剤開発により、アルツハイマー病など神経変性疾患の新たな治療法につながることが期待されます。
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脳の老廃物排出システムの活性化でタウ病理を改善

発表内容

 東京大学大学院医学系研究科認知症共生社会創成治療学の山田薫特任准教授および新潟大学脳研究所の五十嵐博中教授(研究当時)らの研究グループは、新潟大学脳研究所が開発した水透過タンパク質アクアポリン4(AQP4)(注1)活性化薬が、アルツハイマー病などで蓄積する異常タウタンパク質の蓄積を抑制し、タウ病理を改善する事を実証しました。

 アルツハイマー病などのタウオパチーでは、異常なタウタンパク質(注2)が脳内に蓄積し、神経細胞死や認知機能低下を引き起こします。現在、アルツハイマー病に対する治療薬の多くはアミロイドβを標的としていますが、タウ病理を抑制する有効な治療法は限られています。そのため、タウ病理を制御する新たな治療標的の探索が重要な課題となっています。

 近年、脳脊髄液(注3)と脳間質液の交換によって脳内の老廃物を除去するグリアリンパ系(注4)が注目されています。研究グループはこれまで、この経路が細胞外タウの脳外排出に重要であり、その機能低下がタウ蓄積を促進することを報告してきました。しかし、グリアリンパ系に重要なアクアポリン4の働きを薬剤で高めることでタウ病態を改善できるかは明らかではありませんでした。

 そこで本研究では、まず新たに開発したMRI法(JJVCPE)を用いてタウオパチーモデルマウス(注5)の脳内液輸送を解析したところ、病態の早期から機能低下が認められ、加齢とともにさらに悪化することが明らかとなりました。次に、アクアポリン4活性化薬TGN-073を用いてグリアリンパ系を薬理学的に活性化し、その効果をMRIによる脳脊髄液の脳内流入解析や病理学的解析により評価しました。さらに、アクアポリン4欠損マウスを用いて作用機序の検証も行いました。

 その結果、アクアポリン4活性化により脳脊髄液の脳内流入が促進されることがわかりました(図1)。さらにタウオパチーモデルマウスに投与すると、タウ蓄積、神経細胞死が抑制されて海馬体積が増加し、炎症反応も改善することがわかりました(図2)。また、これらの効果はアクアポリン4欠損マウスでは認められず、アクアポリン4依存的な脳内液輸送機構が病態改善に重要であることが示されました。さらに、タウオパチーモデルマウスで低下していた血管周囲アクアポリン4局在も回復しました。

 本研究は、薬剤によりグリアリンパ系を活性化することでタウ病理を改善できることを示した初めての報告であり、アクアポリン4を標的とした新たな認知症治療法の開発につながることが期待されます。

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図1:アクアポリン4活性化薬TGN-073投与による脳脊髄液の脳内流入促進

ガドリニウム造影剤を用いたダイナミック造影MRI(DCE-MRI)により、アクアポリン4活性化薬TGN-073投与後に脳脊髄液の脳内流入が促進されることを可視化した。
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図2:アクアポリン4活性化薬TGN-073はタウ病理と神経変性を改善する

アクアポリン4活性化薬TGN-073を3か月間投与したタウオパチーモデルマウスでは神経細胞内の病的タウ蓄積(左図:茶色)が減少したほか、神経細胞脱落が抑制されて、海馬萎縮が改善した(中央図)。さらに脳内炎症の指標であるアストロサイトの活性化(GFAP染色。右図:茶色)も抑制された。

 なお、本研究は東京大学大学院医学系研究科、新潟大学各施設の動物実験委員会の承認のもと実施されました。

関連情報

「プレスリリース 認知症の病因「タウタンパク質」が脳から除去されるメカニズムを解明」
(2022/2/26 ※論文公開日)
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/2021press.html#20220228

発表者・研究者等情報

東京大学大学院医学系研究科 認知症共生社会創成治療学

山田 薫 特任准教授
岩坪 威 特任教授

新潟大学脳研究所

五十嵐 博中 元教授(現:新潟大学名誉教授)
渡辺 将樹 助教
島田 斉 教授

論文情報

雑誌名 Molecular Neurodegeneration(Volume 21 Issue 1に掲載)
題名 AQP4-dependent enhancement of glymphatic function attenuates tau pathology and neurodegeneration in PS19 mice.
著者名 Kaoru Yamada*, Kazuhisa Ishida, Asami Sakamoto, Hitoshi Shimada, Masaki Watanabe, Masato Shimojo, Hironaka Igarashi, Takeshi Iwatsubo
(*:責任著者)
doi 10.1186/s13024-026-00977-7
URL https://link.springer.com/article/10.1186/s13024-026-00977-7
プレスリリース

研究助成

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業「戦略的国際共同研究プログラム (SICORP) 日・オーストラリア共同研究」「神経炎症とタウクリアランスの相互作用解明と創薬基盤の構築」、日本医療研究開発機構(AMED)脳神経科学統合プログラム「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」、科研費 基盤研究 (B)(課題番号:23H02792)、科研費 基盤研究 (B)(課題番号:18H02762)、科研費 基盤研究 (C)(課題番号:25K10766)、科研費 挑戦的研究(萌芽)(課題番号:20K21568)、新潟大学脳研究所共同研究費補助金(課題番号:#20012, #23012)、中外創薬科学財団、つくし奨学・研究基金、東大病院・ニプロ共同研究開発プロジェクトの支援により実施されました。

用語解説

  • (注1)アクアポリン4:水分子を選択的に通す膜タンパク質「アクアポリン」の一つで脳内では主に血管を取り囲むアストロサイトの足突起に発現している。グリアリンパ系における細胞外液流を調整する重要な分子として知られる。
  • (注2)タウタンパク質:神経細胞内で微小管を安定化する働きをもつタンパク質。異常に凝集・蓄積すると神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こし、アルツハイマー病などのタウオパチーの原因となる。
  • (注3)脳脊髄液:脳や脊髄の周囲を満たす、無色透明の液体で脳や脊髄の保護、栄養補給、老廃物の除去に重要な役割を果たしている。
  • (注4)グリアリンパ系(グリンパティックシステム):脳内においてリンパ系と似た働きを持つ循環システムで、老廃物や不要なタンパク質を脳外へ排出する仕組み。アルツハイマー病などの神経変性疾患との関連が注目されている。血管周囲に存在する間隙を介して体液を循環させることで、脳内で生じた老廃物の除去に重要な働きをしている。
  • (注5)タウオパチーモデルマウス:タウの遺伝子変異が原因で発症する認知症「家族性前頭側頭型認知症・パーキンソニズム」で見出された遺伝子変異 (P301S)を持つタウを神経細胞に過剰に発現するトランスジェニックマウス。加齢とともに神経細胞内にタウが蓄積し、神経細胞死を生じることから、アルツハイマー病などのタウオパチーの研究に広く用いられている。

研究分野

研究成果・実績
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