日本人のアルツハイマー病におけるAPOE-e4ホモ接合体の発症リスクを30年振りに再評価-従来よりも大幅に低倍率であることを解明し、より緻密なリスク評価に基づく予防・医療戦略へ-

2026年06月25日

本研究成果のポイント

  • アルツハイマー病(AD)の強力な疾患感受性遺伝子APOEe4アリルについて、日本人における影響力をメタ解析により再評価しました。およそ30年振りの見直しとなります。
  • e4アリルを2本有するe4ホモ接合体(e4*4)のAD発症リスク(オッズ比)は、従来広く引用されてきた20~30倍ではなく、約12~15倍であることを明らかにしました。これは欧米人や中国人を対象とした既報と概ね一致していました。
  • APOEの関与するAD発症リスクの理解と、将来的な個別化予防・医療戦略の基盤となることが期待されます。

概要

 新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野の宮下哲典准教授、池内健教授らの研究グループは、アルツハイマー病(AD)(注1)の強力な感受性遺伝子であるアポリポプロテインE遺伝子(APOE(注2)について、日本人を対象とした21研究を統合したメタ解析(注3)を実施しました。その結果、APOE-e4アリルを2本有するe4ホモ接合体(e4*4)のAD発症リスクは、従来広く引用されてきた20~30倍ではなく、約12~15倍であることを明らかにしました。およそ30年振りの改訂となります。

 本研究は、日本人のADにおけるAPOE関連リスクをより高精度に評価したものです。欧米人や中国人との比較を通じて、東アジア集団におけるADの遺伝学的背景の理解に重要な知見となります。本研究成果は、2026年6月24日に国際学術誌「Molecular Neurodegeneration」に掲載されました。

Ⅰ.研究の背景

 ADは認知症全体の6〜7割を占める主要な神経変性疾患です。その発症には遺伝要因と環境要因が複雑に関与することが知られています。遺伝要因のなかでもAPOEは、最も強力なAD感受性遺伝子として知られており(文献1, 2)、特にe4アリルはその発症リスクを大きく高めることが報告されています(文献3)。

 1997年にFarrerらが発表した最初のメタ解析研究では、日本人におけるe4アリルホモ接合体(e4*4)のAD発症リスクは30倍を超えると報告されました(文献4)。この推定値は、その後、約30年に渡り、日本人におけるAPOE関連リスクの代表的な指標として広く引用されてきました。一方、この間にも日本国内ではADとAPOEに関する症例対照研究(注4)の知見が蓄積されてきましたが、これらを統合し、包括的に再評価した研究は行われていませんでした。そのため、長年用いられてきたリスク推定値の妥当性を、最新のエビデンスに基づいて検証し、日本人におけるe4*4の実際の発症リスクを明らかにすることが重要な課題となっていました。

 そこで本研究では、日本人を対象とした既報の研究を網羅的に収集・統合し、e4*4のAD発症リスクについて、およそ30年ぶりに再評価しました。

Ⅱ.研究の概要

 本研究グループは、国際的なシステマティックレビュー・メタ解析のガイドライン「PRISMA 2020」に準拠し、PubMed、及びWeb of Scienceを用いて関連文献を検索しました。その詳細はWebサイト「Open Science Framework (https://doi.org/10.17605/OSF.IO/U37QF)」で公開されています。最終的に、21件の症例対照研究が相応しいと判断し、メタ解析を実施しました。本研究では主に、e4*4と最も一般的な基準遺伝型のe3*3を比較し、早期発症型AD(EOAD)、晩期発症型AD(LOAD)、両者を区別しないADにおける発症リスクを評価しました。

Ⅲ.研究の成果

 e3*3に対するe4*4の発症リスク(オッズ比(注5))は以下の通りであることが明らかになりました(図)。

・EOAD
15.51(6.92 - 34.80)、19.35(7.22 - 51.82)
・LOAD
12.54(7.19 - 21.86)、14.20(8.47 - 23.82)
・AD
13.53(7.53 - 24.33)、12.25(6.76 - 22.23)

 注釈1)前者は固定効果モデル(Fixed)による算出、後者はランダム効果モデル(Random)による算出
 注釈2)括弧内の数値は95%信頼区間

 これらの値はいずれも依然として高いリスクを示す一方、従来、日本人で広く引用されてきた20~30倍という値(文献4, 5)よりも低いことが示されました。本研究で得られた値は、欧米人(文献4 - 6)のみならず中国人(文献7)で報告されている値とも概ね一致していました(図)。これはe4*4の発症リスクが東アジア人でほぼ同じである可能性を示唆しています。 韓国人を対象としたメタ解析が今後待たれるところです。

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Ⅳ.今後の展開

 本研究は日本人におけるADの遺伝学的リスク評価に関する重要な基盤データを提供するものです。今後は日本人を含む東アジア人において、e4アリルの影響を修飾する遺伝要因や環境要因の解明を進めると共に、個人ごとの遺伝的背景に基づく発症予測や予防戦略の開発につながることが期待されます(文献8)。また、APOEの稀少バリアント(文献1, 2, 9)や修飾因子の研究も進めており、将来的にはADの精密医療(Precision Medicine)の実現に向けた研究への発展を目指しています。

Ⅴ.研究成果の公表

 本研究成果は、2026年6月24日、神経変性疾患研究分野の主要な国際学術誌「Molecular Neurodegeneration」に掲載されました。

論文タイトル A Reappraisal of APOE Genetic Effects on Alzheimer's Disease Risk in the Japanese Population: A Meta-Analysis
著者 Akinori Miyashita1,*, Norikazu Hara1, Ai Obinata1, Tamao Tsukie1, Mai Hasegawa1, Takanobu Ishiguro2, Kensaku Kasuga1,3, Masataka Kikuchi1, Tadafumi Hashimoto4, Takahisa Kanekiyo5, Takeshi Ikeuchi1,*
  1. Department of Molecular Genetics, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan
  2. Department of Neurology, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan.
  3. Department of Diagnostic Innovation Science, Center for Development of Advanced Medicine for Dementia, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Japan
  4. Department of Degenerative Neurological Diseases, National Institute of Neuroscience, National Center of Neurology and Psychiatry, Kodaira, Japan.
  5. Department of Neuroscience, Mayo Clinic Jacksonville, Florida, USA.
doi 10.1186/s13024-026-00963-z
プレスリリース

Ⅵ.謝辞

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(科研費:21K07271、21H03537[A.M.])、及び日本医療研究開発機構(AMED:JP26dk0207082[T.I.])の支援を受けて実施されました。

用語解説

(注1)アルツハイマー病:Alzheimer's Disease(AD) 認知症の中で最も頻度の高い神経変性疾患です。脳内にアミロイドβやタウと呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に障害されることで、記憶障害や判断力の低下などが進行します。加齢が最大の危険因子ですが、生まれながらの遺伝的要因や生活習慣などの環境要因も発症に関与すると考えられています。

(注2)アポリポプロテインE遺伝子:Apolipoprotein E Gene(APOE
脂質やコレステロールの輸送に関わるアポリポプロテインEというタンパク質を作るための遺伝子です。主なアリルとしてe2e3e4の3種類が知られており、このうちe4はADの発症リスクを高める遺伝要因として広く認知されています。一方、e2は発症リスクを低下させる保護的な効果を持つことが報告されています。

(注3)メタ解析:Meta-Analysis
複数の独立した研究結果を統合し、統計学的手法によって総合的な結論を導き出す研究手法です。個々の研究だけでは十分な症例数が得られない場合でも、多数の研究データをまとめて解析することで、より信頼性の高い結果を得ることができます。医学や公衆衛生分野では、科学的根拠の強さを評価するためによく用いられています。

(注4)症例対照研究:Case-Control Study
例えば、ある病気を発症した人(症例群:Case)と発症していない人(対照群:Control)を対象に、遺伝要因や環境要因などの関与の有無を調べる研究手法です。比較的少ない時間と費用で実施できるため、希少疾患や発症までに長期間を要する疾患の研究に適しています。本研究では、アルツハイマー病患者群と健常対照群のAPOE遺伝子型頻度を比較することで、各遺伝子型が発症リスクに与える影響を評価しました。

(注5)オッズ比:Odds Ratio(OR)
ある因子を持つ人と持たない人の間で、病気などの事象が起こる可能性の違いを表す統計指標です。ORが1であれば両群に差はなく、1より大きい場合は因子を持つ群で病気のリスクが高いことを示し、1より小さい場合はリスクが低いことを示します。
例えば、喫煙と肺がんの関係を調べた研究において、喫煙者の肺がん発症のORが5であった場合、喫煙者は非喫煙者と比べて肺がんを発症する可能性が約5倍高いことを意味します。但し、ORは「何倍発症しやすいか」を示す指標であり、病気になる確率そのものを直接表すものではありません。
遺伝学研究では、特定の遺伝型や変異が病気の発症にどの程度影響するかを評価するために広く用いられています。例えば、ある遺伝型(例:e4*4)のORが12であれば、基準となる遺伝型(例:e3*3[OR = 1])を持つ人に比べて、その疾患を発症する可能性が約12倍高いことを表します。このようにORは、疾患と想定される因子との関連の強さを分かりやすく示す重要な指標です。

文献

  1. Miyashita A, Kikuchi M, Hara N, Ikeuchi T. Genetics of Alzheimer's disease: an East Asian perspective. J Hum Genet. 2023;68(3):115-24.
  2. 宮下 哲典, 劉 李歆, 原 範和. アルツハイマー病におけるレアバリアントの役割とその解析意義. BRAIN and NERVE. 71巻10号, 2019年10月, pp.1071-1079.
    DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201406
  3. Fortea J, Pegueroles J, Alcolea D, Belbin O, Dols-Icardo O, Vaqué-Alcázar L, et al. APOE4 homozygozity represents a distinct genetic form of Alzheimer's disease. Nat Med. 2024;30(5):1284-91.
  4. Farrer LA, Cupples LA, Haines JL, Hyman B, Kukull WA, Mayeux R, et al. Effects of age, sex, and ethnicity on the association between apolipoprotein E genotype and Alzheimer disease. A meta-analysis. APOE and Alzheimer Disease Meta Analysis Consortium. JAMA. 1997;278(16):1349-56.
  5. Bertram L, McQueen MB, Mullin K, Blacker D, Tanzi RE. Systematic meta-analyses of Alzheimer disease genetic association studies: the AlzGene database. Nat Genet. 2007;39(1):17-23.
  6. Belloy ME, Andrews SJ, Le Guen Y, Cuccaro M, Farrer LA, Napolioni V, et al. APOE Genotype and Alzheimer Disease Risk Across Age, Sex, and Population Ancestry. JAMA Neurol. 2023;80(12):1284-94.
  7. Liu M, Bian C, Zhang J, Wen F. Apolipoprotein E gene polymorphism and Alzheimer's disease in Chinese population: a meta-analysis. Sci Rep. 2014;4:4383.
  8. Kikuchi M, Miyashita A, Hara N, Kasuga K, Saito Y, Murayama S, et al. Polygenic effects on the risk of Alzheimer's disease in the Japanese population. Alzheimers Res Ther. 2024;16(1):45.
  9. Miyashita A, Obinata A, Hara N, Mitsumori R, Kaneda D, Hashizume Y, et al. Association of rare APOE missense variants with Alzheimer's disease in the Japanese population. J Alzheimers Dis. 2025;106(1):363-77.

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