ALSの症状の多様性を説明する遺伝的手がかりを発見-145例の剖検による解析から-

2026年05月20日

概要

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、手足やのど、呼吸に関わる筋肉を動かす神経が徐々に障害される難病です。ALSは主に「運動の病気」として知られていますが、患者さんによっては、考える力、言葉の使い方、行動の変化など、認知機能に関わる症状を伴うことがあります。この違いの背景には、ALSで重要な異常タンパク質であるTDP-43(注1)が、主に運動に関わる神経領域にとどまる場合と、前頭葉・側頭葉・海馬など認知機能に関わる脳領域にも認められる場合があることが関係すると考えられています。

 新潟大学脳研究所脳神経内科学分野・医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターの畠野雄也 特任助教、病理学分野の中原亜紗助教、脳資源科学分野の他田真理教授、病理学分野の柿田明美教授、脳神経内科学分野の小野寺理教授、脳神経内科学分野の石原智彦准教授らの研究グループは、145例のALS剖検例を解析し、アルツハイマー病のリスク因子として知られるAPOE ε4(注2)を持つ患者さんでは、TDP-43病理が認知機能に関わる脳領域にまで認められるタイプが多いことを明らかにしました。

 本研究成果は、2026年5月16日、Acta Neuropathologica誌にオンライン掲載されました。

本研究成果のポイント

  • ALSでは、異常なTDP-43タンパク質が、運動に関わる領域だけでなく、認知機能に関わる脳領域にもみられる患者さんがいます。
  • 145例のALS剖検例を解析した結果、APOE ε4を持つ患者さんでは、このような広範囲型のTDP-43病理が多いことがわかりました。
  • この関連は、アルツハイマー病でみられるアミロイドβやタウの蓄積とは独立している可能性が示されました。
  • ALSの症状や病理の多様性を理解し、将来の個別化医療・ケア、病型別治療法開発につなげる手がかりとなります。

Ⅰ.研究の背景

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、手足やのど、呼吸に関わる筋肉を動かす神経が徐々に障害される難病です。多くのALS患者さんの脳や脊髄では、リン酸化TDP-43(pTDP-43)(注3)というタンパク質が神経細胞の中に異常にたまることが知られており、ALSの病態を考えるうえで重要な手がかりとされています。

 しかし、pTDP-43がどこまで広がるかは患者さんによって異なります。主に運動に関わる領域にとどまる場合もあれば、前頭葉・側頭葉・海馬など、認知機能に関わる領域まで広がる場合もあります。後者では、認知症を合併しやすいとされています。一方で、なぜこのような広がり方の違いが生じるのかは、十分に明らかになっていませんでした。

 近年、アルツハイマー病の発症リスクに関わる遺伝的因子として知られるAPOE ε4が、アミロイドβやタウといったアルツハイマー病関連病理だけでなく、さまざまな神経変性疾患における異常タンパク質の蓄積や広がりにも関与する可能性が注目されています。そこで本研究では、APOE ε4がALSにおけるpTDP-43病理の広がり方にも影響しているのではないかと考え、多数のALS剖検例を用いて検討しました。

Ⅱ.研究の概要・成果

 本研究では、145例の孤発性ALS剖検例を対象に、TDP-43病理が主に運動に関わる領域にとどまるタイプと、前頭葉・側頭葉・海馬など認知機能に関わる脳領域にも認められるタイプに分類しました。そのうえで、アルツハイマー病のリスク因子として知られるAPOE ε4との関連を調べました。

 その結果、APOE ε4を持つ患者さんでは、TDP-43病理がより広い脳領域に認められるタイプが多いことがわかりました。具体的には、APOE ε4を持つ患者さんでは65.5%がこのタイプであったのに対し、APOE ε4を持たない患者さんでは39.7%でした。

 さらに、年齢、病気の経過、アミロイドβやタウといったアルツハイマー病関連病理、ALS関連遺伝子のまれな変異などを含めて統計解析を行いました。解析は統計モデル(構造方程式モデリング:Structural Equation Modeling)(注4)と機械学習の両面から検討しました。その結果、APOE ε4とALSにおけるTDP-43病理の関連は、アミロイドβやタウの蓄積を介したものではなく、より直接的な関連である可能性が示されました。

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図:APOE ε4とTDP-43病理の範囲との関連を検討した統計モデル

APOE ε4は、アルツハイマー病関連病理であるアミロイドβやタウとは独立して、広範なTDP-43病理タイプと関連していました。なお、矢印は統計モデル上の関連を示すものです。

Ⅲ.今後の展開

本研究の成果は、ALSを一つの病気として一括りにするのではなく、病理の範囲や遺伝的背景に基づいて、より細かく理解する重要性を示すものです。将来的には、APOE遺伝子型を含む複数の情報を組み合わせることで、認知機能評価やコミュニケーション支援の準備を、より早期から患者さんごとに検討する手がかりとなる可能性があります。
 また、TDP-43病理がどの脳領域に認められるかという視点は、ALSの病型分類をより精密にするうえで重要です。こうした分類が進むことで、将来的には病型に応じた治療法開発や臨床試験の設計にも役立つことが期待されます。

Ⅳ.研究成果の公表

本研究成果は、2026年5月16日(日本時間)、科学誌「Acta Neuropathologica」にオンライン掲載されました。
論文タイトル APOE ε4 influences the widespread TDP-43 pathological subtype in sporadic amyotrophic lateral sclerosis
著者 Yuya Hatano, Asa Nakahara, Mari Tada, Akiyoshi Kakita, Osamu Onodera, Tomohiko Ishihara.
doi 10.1007/s00401-026-03029-y
プレスリリース

Ⅴ.謝辞

 本研究にあたり、剖検にご同意くださいました患者さんならびにご家族の皆様に、深く感謝申し上げます。また、生前の診療に携わり、剖検の実施にご尽力くださいました医師の皆様にも、心より御礼申し上げます。

 また、本研究は、椿記念財団研究助成(畠野雄也)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)(課題番号:21K07272および24K10506[石原智彦]、23K14771[畠野雄也])、AMED-SICORPプログラム(課題番号:JP22jm0210097[柿田明美])、AMEDムーンショット型研究開発事業(課題番号:JP24zf0127012[柿田明美])、JSPS J-PEAKSプログラム(課題番号:JPJS00420240016)、および厚生労働省 難治性疾患政策研究事業(課題番号:JPMH23FC1008[小野寺理および柿田明美])の支援を受けて実施されました。

用語解説

  • (注1)TDP-43:神経細胞の中で働くタンパク質の一つです。ALSの多くでは、このTDP-43が通常とは異なる形で神経細胞の中にたまることが知られており、ALSの病態を理解するうえで重要な手がかりとされています。
  • (注2)APOE ε4:APOE(アポイー)とは、体の中で脂質の運搬や神経細胞の維持に関わるタンパク質を作る遺伝子です。APOEにはいくつかの型があり、その一つがAPOE ε4です。APOE ε4は、アルツハイマー病の発症リスクや異常タンパク質の蓄積と関係する遺伝的要因としてよく知られています。
    ただし、APOE ε4を持っているからといって、必ず病気を発症するわけではありません。また、APOE ε4を持っていない人でも神経変性疾患を発症することがあります。APOE ε4は、病気を直接決めるものではなく、あくまで「病気のなりやすさ」や「病気の特徴」に影響する可能性のある遺伝的要因の一つと考えられています。
  • (注3)リン酸化TDP-43:TDP-43にリン酸基という小さな分子が付加された状態を指します。ALSなどの神経変性疾患では、このリン酸化TDP-43が異常に蓄積することが病理学的な特徴の一つとされています。
  • (注4)構造方程式モデリング(SEM):複数の要因がどのように関係し合っているかを同時に調べるための統計解析法です。

研究分野

研究成果・実績
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