脳脊髄液中のDNAの解析により原発性中枢神経系リンパ腫の診断が可能に - 手術による生検不要で治療を開始 -

2026年01月28日

概要

新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科の水戸部正樹医師と同大学脳研究所脳神経外科分野の大石誠教授、同研究所腫瘍病態学分野の棗田学准教授らの研究グループは、脳腫瘍患者の脳脊髄液(注1)中のcell-free DNA(注2)からドロップレット・デジタルPCR(注3)を用いてMYD88 L265P変異を同定するリキッドバイオプシーという手法で、侵襲の高い外科的生検を行わずに原発性中枢神経系リンパ腫の診断を行い、治療を開始することに成功しました。本研究グループはこれまでも同手法(リキッドバイオプシー)による脳脊髄液中のcell-free DNAの解析を行ってきましたが、最終的な原発性中枢神経系リンパ腫の診断は外科的生検で行っていました。今回の報告から、リキッドバイオプシーが侵襲性の高い外科的生検の代替になり得ることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • ドロップレット・デジタルPCRを用いることで、脳脊髄液中のcell-free DNAから原発性中枢神経系リンパ腫に特徴的な遺伝子変異を検出することができる。
  • 高齢・体力低下や腫瘍が脳の深部にある場合など手術のリスクが高い状況でも、MYD88遺伝子変異を検出することで、外科的生検を行わずに原発性中枢神経系リンパ腫を診断して治療開始できる。

Ⅰ.研究の背景

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)は、脳などの中枢神経系に発生する希少な血液がんで、これまで確定診断には脳の組織を採取する外科的生検(手術)が必要とされてきました。しかし、外科的生検は合併症のリスクがあり、腫瘍の場所が脳幹など深部にある場合や、高齢・体力低下など患者さんの状態によっては実施が困難なことも少なくありません。本研究グループはこれまでの研究で、PCNSLに特徴的なMYD88 L265Pという遺伝子変異を、脳脊髄液中に含まれる微量なcell-free DNAから高精度に検出できることを報告してきました。今回の研究では、手術による生検が困難と判断された患者さんに対し、リキッドバイオプシーのみでPCNSLの診断と治療開始が可能かを検証しました。

Ⅱ.研究の概要・成果

新潟大学医歯学総合病院を含む5つの医療機関から、PCNSLが疑われるものの手術が難しいと判断された10名の患者さんが参加しました。各施設で腰椎穿刺により脳脊髄液を採取し、新潟大学に送付してcell-free DNAを抽出、ドロップレット・デジタルPCRを用いて遺伝子変異の有無を調べました。10名の患者さんのうち8名は腫瘍が脳幹など深い部位にあったために、2名は高齢や全身状態の問題により外科的生検は行われませんでしたが、全ての患者さんでMYD88 L265P遺伝子変異が検出され、PCNSLと診断されました。診断に基づいて治療を開始したところ、全例で治療効果が確認されました。また、慢性腎不全を合併していた患者さんでは、再発の可能性を否定するための検査としてもリキッドバイオプシーが有用であることが示唆されました。

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(左図)頭部MRIで第4脳室周囲に造影される腫瘍を認める(赤矢印)。病変が深部にあるため外科的な生検は困難である。
(右図)ドロップレットPCRの解析結果。遺伝子変異のあるドロップレットが多量に検出され(青丸)、生検を行わなくても腫瘍が原発性中枢神経系リンパ腫であることが分かる。

Ⅲ.今後の展開

本研究により、脳脊髄液を用いた低侵襲な液体生検が、PCNSLの診断において外科的生検の代替となる可能性が示されました。手術を行わずに早期診断・早期治療が可能となれば、患者さんの身体的負担を軽減し、治療成績の向上につながることが期待されます。今後は、より多くの患者さんを対象とした研究を行い、この診断法の信頼性と有用性をさらに検証していくことが望まれます。

Ⅳ.研究成果の公表

 本研究成果は、2026年1月12日、科学誌「Neuro-Oncology Advances」にオンライン掲載されました。

論文タイトル Treatment initiation by positive liquid biopsy alone in primary central nervous system lymphoma: a retrospective analysis of a multi-institutional study
著者 Masaki Mitobe, Satoshi Shibuma, Haruhiko Takahashi, Jotaro On, Toru Takino, Keita Kawabe, Yoshihiro Mouri, Shunsuke Kumagai, Takashi Kozakai, Akihito Momoi, Naomi Suzuki, Takao Fukushima, Takaharu Suzuki, Hiroyuki Kuroda, Etsuji Saji, Kimihiko Nakamura, Hideki Hashidate, Asa Nakahara, Takahiro Tomita, Jun Watanabe, Yoshihiro Tsukamoto, Masayasu Okada, Tetsuya Hiraishi, Shinya Yamashita, Takuya Akai, Satoshi Kuroda, Akiyoshi Kakita, Hirohito Sone, Jun Takizawa, Makoto Oishi, Manabu Natsumeda
doi 10.1093/noajnl/vdaf274

プレスリリース

Ⅴ.謝辞

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(24K12238, 21KK0156, 22K16679)による助成金の支援を受けて行われました。また、NSGグループ(本社所在地:新潟市中央区)からの支援も受けて行われました。

用語解説

  • (注1)脳脊髄液:脳や脊髄といった中枢神経の周囲を満たしている液体。腰椎穿刺という手法で簡便に採取できる。
  • (注2)cell-free DNA:細胞外遊離DNA。壊れた細胞に由来し、血液や脳脊髄液に遊離したDNAのこと。
  • (注3)ドロップレット・デジタルPCR:DNA溶液を微細な液滴(ドロップレット)に分けてPCR反応(DNAを増やす反応)を行うことで、微量な変異DNAが検出できる超高感度なPCRの最新手法。

研究分野

研究成果・実績
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