AIが7,000万年前の新種の頭足類化石を発見! ~生命進化史解読を加速させるデジタル技術~

2026年01月22日

概要

 北海道大学大学院理学研究院の伊庭靖弘准教授、同大学大学院理学院修士課程の杉浦寛大氏、同大学大学院理学研究院の池上 森学術研究員、高輝度光科学研究センターの竹田裕介研究員、ルール大学のヨーク・ムッターローゼ教授、モルゲンロット株式会社のメフメト・オグズ・デリン氏、同社の原田隆宏氏、大阪公立大学大学院理学研究科の久保田彩講師、中央大学の西田治文名誉教授、新潟大学脳研究所の田井中一貴教授、アメリカ自然史博物館のニール・ランドマン教授の研究グループは、未知のオブジェクトを検出可能なゼロショット学習AIを用いて、あらゆる化石を自動かつデジタルに発掘する手法を開発しました。さらに本手法によって発見された、新属新種となる頭足類の化石を報告しました。

 生命の進化を理解するうえで大きな障壁となっているのが、化石記録の不足と偏りです。化石の探査は人の経験と判断に大きく依存するため、化石記録は既知の対象や視認性・保存性の高いものに偏りやすいという課題がありました。

 本研究では、従来手法と異なり学習データに制約されない物体検出が可能な、ゼロショット学習AIを用いた化石発見手法を確立しました。本手法をアメリカ・サウスダコタ州の白亜紀後期(約7,400万~6,700万年前)の岩石に適用することで、新属新種となる頭足類「Uluciala rotundata(ウルシアラ・ロツンダータ)」の化石が発見されました。分類の結果、これは現在の海洋で繁栄していながらほとんど化石記録がなかった、コウイカとダンゴイカからなるグループの最古の記録であることが明らかになりました。この発見により、このグループが白亜紀後期に分化・多様化を進めていた可能性が示されました。本研究は、世界で初めてAIが新種となる化石の発見をもたらした例になります。したがって以上の成果は、化石記録の不足がボトルネックであった生命進化史の解読を、ゼロショット学習AIが加速させる可能性を示唆します。

 なお、本研究成果は2026年1月16日(金)公開のCommunications Biology誌にオンライン掲載されました。

本研究成果のポイント

  • AIを用いて、岩石中のあらゆる化石を自動かつデジタルに発掘する手法を確立。
  • 世界で初めてAIが新種となる化石の発見をもたらした。
  • 約7,000万年前に現生イカ型頭足類の初期進化・多様化が進んだことを解明。

背景

 生命の進化を理解するうえで最大の課題の一つは、化石記録の不足です。化石の探査はフィールドでの探索など、人手や経験に頼る手法が中心でした。このため、見つかる化石は、「研究者がすでによく知っているもの」「大きくて見つけやすいもの」「硬く丈夫なもの」に偏るという根本的な問題がありました。こうしたバイアスなく化石を抽出する手法として、AIを用いた手法が注目されます。これまでの研究では、大量の学習用データが必要で、膨大な労働・計算コストを要求する教師あり学習AIを中心に開発が進められていました。しかし、これらの手法は学習用データにあるものしか検出できないため、未知の発見や理解という科学の目標には適していないことが課題でした。

 本研究で扱ったコウイカやダンゴイカの仲間(図2a,b)は、化石記録の不足が特に顕著なグループです。彼らは現在の海洋で繁栄している一方で、その柔らかい体は化石として残りにくく、その進化史はほとんど知られていませんでした。化石として比較的残りやすく、種レベルの分類が可能なクチバシ(図2c)は彼らの進化史を探る手がかりとなりますが、小さく壊れやすいため、従来方法では発見や抽出が困難でした。

研究手法

 本研究では、北海道大学大学院理学研究院伊庭研究室で開発されたデジタル化石マイニング手法に、ルールや条件を関連付けた推論から未知のオブジェクトを検出可能にするゼロショット学習AIを組み込み、岩石内部から化石を自動的に抽出する手法を開発しました。デジタル化石マイニングでは、まず岩石を少しずつ削り、断面を高精細で撮影します。この過程を繰り返すことで、岩石をまるごと大規模デジタルデータに変換し、その内部をフルカラーで可視化します(図1a)(参考:https://www.hokudai.ac.jp/news/2025/06/1-21.html)。この手法で、物理的に取り出すことが不可能な化石も、デジタルに岩石から分離可能になりました。本研究ではこの画像データから化石を探し出す過程に、ゼロショット学習AIを組み込み、手法をアップデートしました(図1a~d)。この手法をアメリカ・サウスダコタ州の白亜紀後期(約7,400万〜6,700万年前)の地層から産出した岩石に適用し、岩石内部のすべての化石を3Dモデルとして可視化しました。その後、含まれていた頭足類のクチバシ化石を詳細に観察し、現生種・化石種との比較を行いました。

研究成果

 本研究により、ゼロショット学習AIを用いて岩石内部からあらゆる化石を自動的に発見・抽出する手法が確立されました(図1)。これは、従来のAI手法に存在した膨大な開発コストと、検出可能な対象が学習データに制約されてしまう課題の両方を同時に解決しました。本研究で発見されたクチバシ化石は、詳細な検討の結果新属新種であることが明らかになり、「Uluciala rotundata(ウルシアラ・ロツンダータ)」と命名されました(図3)。さらに本種はコウイカとダンゴイカの中間的な特徴を示し、化石記録が乏しく実証が困難だった両者の近縁性を裏づけました。約7,400万年前の標本は彼らの最古の記録にあたり、彼らの分化や多様化が白亜紀に始まっていたことが示されました。本研究の成果は世界で初めてAIが新種となる化石の発見をもたらした例であり、本手法が未知の生命化石の発見を促進させることを実証しました。

今後への期待

 本研究で導入したゼロショット学習AIは、従来必要だった大量の学習用データ作りが不要であるうえ、未知のものも含めてあらゆる対象を検出・抽出できる点が特徴です。これを組み込んだデジタル化石マイニングは、これまで生命進化史の研究のボトルネックとなっていた、未知の化石の発見を多数もたらすと予想されます。これにより予想外の発見が促進され、過去の生物多様性の理解を飛躍的に加速させることが期待されます。

謝辞

 本研究にあたり、小清水亜美⽒(株式会社EndlessGloryオフィスリスタート)、小杉恵美氏(株式会社UNITEX)、池田 譲教授(琉球大学理学部海洋自然科学科)をはじめ、多くの方々に多大なるご協力をいただきました。また、本研究ではJSPS科研費(JP22J13936、JP23K17274、JP19H02010、JP22H02937、JP23H02544、JP25K22459)、JAXA宇宙探査イノベーションハブ(JX-PSPC-540452)、中央大学特定課題研究費(2022-2023年度)、中央大学共同研究費の助成を受けました。

論文情報

 本研究成果は、2026年1月16日、科学誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

論文タイトル The oldest sepioid cephalopod from the Cretaceous discovered by Digital fossil-mining with zero-shot learning AI(ゼロショット学習AIによるデジタル化石マイニングが発見した、白亜紀の最古のセピオイド頭足類)
著者 杉浦寛大1、池上 森1、竹田裕介2、Jörg Mutterlose3、Mehmet Oguz Derin4、久保田彩5、西田治文6、田井中一貴7、原田隆弘4、Neil H. Landman8、伊庭靖弘1
1北海道大学大学院理学研究院、 2高輝度光科学研究センター、3ルール大学、4モルゲンロット株式会社、5大阪公立大学大学院理学研究科、6中央大学理工学部、7新潟大学脳研究所、8アメリカ自然史博物館)
doi 10.1038/s42003-026-09519-9
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図1. AIを搭載したデジタル化石マイニングの手順。元の連続画像データ(a)、AIで化石の領域を抽出したデータ(b)、抽出したすべての化石を、化石本来の色で3Dモデル化したもの(c)、発見された新種の頭足類のクチバシ化石(d)。
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図2. 本研究で発見された新種に近縁な、現生のコウイカの仲間(a)とダンゴイカの仲間(b)と、彼らがもつクチバシ(c)。
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図.3 発見された新属新種「Uluciala rotundata(ウルシアラ・ロツンダータ)」の下クチバシ化石。7,400万年前の標本(左)と6,700万年前の標本(右)。3Dモデルはオンラインで自由に保存・観察が可能
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.28119998)。

研究分野

研究成果・実績
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