血管内大細胞型B細胞リンパ腫の臨床的特徴を発見 -早期診断と治療に期待-

2023年07月11日

概要

 新潟大学脳研究所脳神経内科学分野の北原匠(大学院生)、金澤雅人(准教授)、小野寺理(教授)らの研究グループは、同脳神経外科学分野の棗田学(特任准教授)、藤井幸彦(教授/研究当時)、同病理学分野の柿田明美(教授)と5つの協力病院との共同研究を行い、血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴を明らかにしました。血管内大細胞型B細胞リンパ腫は、血管内で腫瘍細胞が増殖するため、診断が非常に難しいタイプの悪性リンパ腫です。高頻度に脳や脊髄などの中枢神経系合併症をきたし、診断や治療の遅れにつながることがあります。本研究では、血管内大細胞型B細胞リンパ腫に罹患した患者さんの臨床情報を解析することで、特に脊髄病変の特徴を明らかにしました。本発見は、血管内大細胞型B細胞リンパ腫の早期診断、治療につながるものと期待されます。

研究成果のポイント

・血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄病変は、脊髄の下端(円錐部)に好発することを明らかにした。
・血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄障害は、脳障害が急性の経過をとるのに対して、緩徐に進行する経過をとることを明らかにした。
・本研究で明らかになった脊髄病変の特徴は、他の脊髄病変をきたす疾患との鑑別に有用であり、早期に血管内大細胞型B細胞リンパ腫を疑う指標となることを示した。

Ⅰ.研究の背景

 血管内大細胞型B細胞リンパ腫は、稀なタイプの悪性リンパ腫の1つです。一般的な悪性リンパ腫とは違い、全身の血管内で腫瘍細胞が増殖することで様々な臓器に病変をきたします。そのため多彩な症状を引き起こし、時に神経症状のみで発症し、診断が困難な場合が多くあります。有効な化学療法の開発により治療予後は改善しているため、早期に正確な診断を下し、治療につなげることが重要です。
 血管内大細胞型B細胞リンパ腫がきたす臓器病変の中で、脳や脊髄などの中枢神経系病変は特に高頻度に合併します。脳病変は、脳梗塞や認知機能障害を引き起こし、急速に進行することがこれまでの研究で明らかになっています。しかし、脊髄病変の特徴は明らかになっていませんでした。そのため、診断や治療の遅れにつながる患者さんが多くいます。

Ⅱ.研究の概要・成果

 脊髄病変は、様々な疾患が原因となり引き起こされ、四肢の感覚障害や運動障害、排尿障害などをきたします。診断や治療の遅れは、重篤な後遺症につながり、患者さんの生活に大きな支障をきたします。さらに、血管内大細胞型B細胞リンパ腫の場合、脊髄以外にも全身に病変が及び、進行すれば命にかかわります。
 様々な疾患が脊髄病変の原因となるため、診断は疾患毎に特徴的な経過や画像検査などを参考にして行われます。しかし、血管内大細胞型B細胞リンパ腫は非常に稀な疾患であるため、その特徴について調べることが困難であり、これまで血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴は明らかになっていませんでした。
 そこで本研究グループは、血管内大細胞型細胞B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴を明らかにするため、新潟大学医歯学総合病院脳神経内科、同脳神経外科とその協力病院に入院した16人の患者さんの臨床情報、画像データを収集し、解析を行いました。さらに、これまでに症例報告されている脊髄病変をきたした血管内大細胞型B細胞リンパ腫の文献を収集し、解析することで本研究の結果と似た傾向を持つかどうかを確かめました。
 その結果、血管内大細胞型B細胞リンパ腫は脊髄の下端(脊髄円錐)に病変が好発し(図1)、緩徐に進行する経過をとることを明らかにしました。


図1.血管内大細胞型細胞B細胞リンパ腫の脊髄病変

脊髄血管内で腫瘍細胞が増殖することで脊髄に病変をきたします。血管内大細胞型細胞B細胞リンパ腫による脊髄病変は脊髄の下端(脊髄円錐)に好発することを明らかにしました。

 血管内大細胞型B細胞リンパ腫は脊髄下端(円錐部)に好発すること、脊髄病変は脳病変とは異なり、緩徐に進行する経過をとることを明らかにしました。本研究で明らかとなった特徴は、脊髄病変をきたす他疾患、例えば神経サルコイドーシス、脊髄炎、血管障害、脊椎ヘルニアとの鑑別に役立てることができます。経過と特徴的な脊髄病変から早期に血管内大細胞型B細胞リンパ腫を疑うことが可能となることにより、適切な診断、治療につながり、予後の改善や後遺症の軽減が期待できます。

Ⅲ.今後の展開

 血管内大細胞型B細胞リンパ腫は神経症状以外の他臓器の障害による症状や、発熱、体重減少などの全身症状で発症する場合もあります。今後、こうしたタイプを含めて比較検討することが、神経症状を主症状とする血管内大細胞型B細胞リンパ腫の早期診断、治療の最適化のために必要と考えられます。
 また、脳に障害をきたし易いタイプと脊髄に障害をきたし易いタイプでの発症の分子的機序解明が今後の課題です。

Ⅳ.研究成果の公表

 本研究成果は、2023年6月23日、欧州神経学会機関紙「European Journal of Neurology」に掲載されました。

【論文タイトル】

Progressive conus medullaris lesions are suggestive of intravascular large B-cell lymphoma

【著者】 Sho Kitahara, Masato Kanazawa, Manabu Natsumeda, Aki Sato, Masanori Ishikawa, Kenju Hara, Hiroyuki Tabe, Kunihiko Makino, Kouichirou Okamoto, Nobuya Fujita, Akiyoshi Kakita, Yukihiko Fujii, Osamu Onodera
【doi】 10.1111/ene.15941

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Ⅴ.謝辞

 本研究は、新潟県・日本医師会医学研究奨励賞、日本脳神経財団森山賞などの支援を受けて行われました。 本研究に関わったすべての脳神経内科医、脳神経外科医、血液内科医、皮膚科医、病理医の皆様、この研究を可能にしてくれた患者さんとその家族の方々に心より感謝申し上げます。

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研究成果・実績
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