マウス脳におけるNMDA型グルタミン酸受容体の正確なタンパク質定量に成功

2023年05月09日

概要

 本研究所動物資源開発研究分野の鈴木康浩博士、モデル動物開発分野の﨑村建司博士、およびデンマーク・オーフス大学の中本千尋博士らの研究グループのおこなったNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)サブユニットのタンパク質定量に関する研究結果が国際科学誌Neurochemistry Internationalに掲載されました(2023年3月11日公開)。

研究成果のポイント

・NMDARサブユニットGluN1及びGluN2A~Dについて、力価の異なる各サブユニットの特異的抗体のウエスタンブロットでのシグナルを補正計算することでタンパク質定量を可能とする技術を開発しました。
・マウスの各発達段階での大脳皮質、海馬、小脳における各NMDARサブユニットの正確なタンパク質量を世界で初めて明らかにし、細胞分画法を用いて細胞内局在量比を推定することができました。
・マウス脳におけるGluN1とGluN2の量比は、細胞全体ではGluN1が過剰であり、受容体チャネルとして働く細胞膜では等量程度であることが示されました。
・主に胎生期から幼若期に発現し機能していると予想されていたGluN2Dは成体マウスにおいてもタンパク質として広く脳に分布しており、機能的受容体として働いている可能性が示唆されました。

Ⅱ.研究の背景と成果

 NMDARは興奮性神経伝達を担う分子群の主要な構成成分で、シナプス可塑性の鍵を握る分子として脳機能に重要な役割を果たしており、様々な脳疾患に関係します。NMDARは、単一遺伝子にコードされ複数のスプライス型として発現するGluN1と4種類のGluN2が2分子ずつ会合して構成されています。サブユニットの組み合わせがNMDARのチャネル特性を決定しますが、その機能的多様性の裏付けとなる各サブユニットの脳領域ごとの発現量や細胞内局在の量的関係はこれまで明らかではありませんでした。本研究では、脳に広く分布するAMPA型受容体サブユニットGluA1を内部標準とするキメラタンパク質を用いた定量的ウエスタンブロット法(図1)を独自に開発し、マウスの各発達段階での大脳皮質、海馬、小脳におけるNMDARサブユニットのタンパク質量について細胞分画法を用いて網羅的に測定しました(図2)。


図1:キメラタンパク質を用いた定量的ウェスタンブロット法。
(A)マウス脳サンプルの分画イメージ図。(B)ウェスタンブロットのイメージ図。(C)実際のウェスタンブロットの図。GluN1についてはC末端のオルタナティブスプライス型であるGluN1-C2とGluN1-C2'を分けて定量した。

図2:NMDARサブユニットのマウス脳におけるタンパク質量
(A)成体における各脳領域、細胞画分のNMDARサブユニット量比。(B)発達段階におけるNMDARサブユニット量比の変動。

Ⅲ.今後の展開

 本研究により開発された技術は、NMDARサブユニットの構成や量的関係を調べるうえで有用であり、得られた知見は脳機能や脳疾患に関連する分子機序の解明のための基礎的なデータとなることが期待されます。

Ⅳ.研究成果の公表

【論文タイトル】 Quantitative analysis of NMDA receptor subunits proteins in mouse brain
【著者】 Yasuhiro Suzuki, Chihiro Nakamoto, Izumi Watanabe-Iida, Masahiko Watanabe, Tomonori Takeuchi, Toshikuni Sasaoka, Manabu Abe, Kenji Sakimura
【doi】 10.1016/j.neuint.2023.105517

研究分野

研究成果・実績
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