CSF1R関連白質脳症におけるCSF1R欠失を含む新規変異を同定しました
2023年03月31日
概要
当研究所の石黒敬信 病院専任助教(脳神経内科学分野)、今野卓哉 非常勤講師(脳神経内科学分野)、原範和 特任助教(遺伝子機能解析学分野)、小野寺理 教授(脳神経内科学分野)、池内健 教授(遺伝子機能解析学分野)らは、全国13の医療機関・施設との共同研究により、CSF1R関連白質脳症におけるCSF1F欠失例を含む新規の遺伝子変異を同定し、「European Journal of Neurology」誌に発表しました。
Ⅰ.研究の背景
CSF1R関連白質脳症はcolony stimulating factor 1 receptor(CSF1R)遺伝子変異によって生じる、若年性認知症を呈する常染色体顕性遺伝性疾患です。これまでCSF1Rのチロシンキナーゼ領域(TKD)のコード領域を中心に50以上のミスセンス変異の他,スプライスサイト変異,フレームシフト変異,ナンセンス変異,微少欠失が報告されています。本研究では、CSF1R関連白質脳症が疑われた症例について、通常実施しているサンガー法によるシークエンシング解析だけでなく、構造変異を含む多面的なCSF1R解析を行いました。
Ⅱ.研究の概要
CSF1R関連白質脳症が疑われた症例について、通常実施しているサンガー法によるシークエンシング解析を行い、病的変異の有無を検討しました。病的変異が認められない症例については、全エクソーム解析を用いたCSF1Rコピー数(*1)多型解析を実施しました。コピー数異常が疑われた症例については定量PCR法によりCSF1Rコピー数を決定し、更に長鎖シークエンサーによりゲノム欠失領域を決定しました。
Ⅲ.研究の成果
7つの新規変異、5つの既知変異を同定しました。新規変異ではミスセンス変異、インフレーム欠失、フレームシフト変異に加え、CSF1RのC末端領域の部分欠失を2症例に同定しました。この2つの部分欠失の欠失領域はいずれもTKDを含んでおり、ハプロ不全(*2)が病態に関与していることが推察されました。新規変異例、既知変異例のいずれもその臨床的特徴、画像的特徴は多様でした。
Ⅳ.今後の展開
CSF1Rの構造異常がCSF1R関連白質脳症の原因となることを始めて明らかにしました。本疾患の正確な診断には、通常のサンガー法で異常が検出されない症例では、遺伝子欠失のような構造的異常の検索が重要と言えます。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は,2023年3月21日,科学誌「European Journal of Neurology」に掲載されました。
【論文タイトル】 |
Novel Partial Deletions, Frameshift and Missense Mutations of CSF1R in Patents with CSF1R-Related Leukoencephalopathy |
【著者】 | Takanobu Ishiguro, Takuya Konno, Norikazu Hara, Bin Zhu, Satoshi Okada, Mamoru Shibata, Reiko Saika, Takaya Kitano, Megumi Toko, Tomohisa Nezu, Yuka Hama, Tomoya Kawazoe, Ikuko Takahashi-Iwata, Ichiro Yabe, Kota Sato, Hayato Takeda, Shintaro Toda, Jin Nishimiya, Toshiyuki Teduka, Hiroaki Nozaki, Kensaku Kasuga, Akinori Miyashita, Osamu Onodera, Takeshi Ikeuchi |
【doi】 | 10.1111/ene.15796 |
用語解説
(*1)遺伝子のコピー数:常染色体上にある遺伝子は、通常2つ存在する(2コピー)。染色体構造上あるいはDNA塩基配列の異常により、これが減少あるいは増加している場合がある。それぞれ、欠失(deletion、1コピー以下)や重複(duplication、3コピー以上)という。
(*2)ハプロ不全:通常、常染色体上に2つある遺伝子からそれぞれタンパク質が作られる。片方の遺伝子に異常があると、正常タンパク質の産生が減少し、生体の機能維持が困難となる場合がある。常染色体顕性遺伝疾患の発症にかかわる。