CSF1R遺伝子変異によるALSP/HDLSに関する新たな知見を報告しました

2017年01月04日

概要

Adult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia (ALSP)(hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids (HDLS) とも呼ばれます)は,colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R) 遺伝子の変異によって生じる遺伝性白質脳症です。若年性認知症を引き起こしますが,臨床像や病態を含め未解明の部分が多く,有効な治療法がない難病のひとつです。新潟大学脳研究所の池内健教授を中心とするグループは,病因遺伝子CSF1Rが発見された2012年より本疾患の研究に取り組んでいます。今回,脳研究所神経内科学分野・今野卓哉先生(現在,Mayo Clinic留学中),遺伝子機能解析学分野・池内健教授の研究グループは,信州大学・吉田邦広教授,京都府立医科大学・水野敏樹教授,Mayo Clinic Jacksonville・Wszolek教授らとの共同研究により,ALSPの臨床像と頭部画像所見について新たな知見を見出しました。以下に,その概略を紹介します。

CSF1R遺伝子変異によるALSP/HDLSの臨床像の解析

厚生労働省研究班(小野寺理教授代表研究者)において解析した本邦のCSF1R遺伝子変異を有するALSP/HDLS 26症例と,これ以外に世界中から論文報告された96症例を併せた122症例の臨床像を解析しました。男性より女性の方が発症年齢が低いこと(平均発症年齢:女性40歳,男性47歳),20歳代発症の女性では認知機能障害よりも運動障害が目立つこと,といった臨床像における性差を明らかにしました。ALSP/HDLSは稀な疾患ですが,全報告例の約3割が日本からの報告であり,本邦に比較的多い疾患といえます。本研究成果は2016年9月29日にEuropean Journal of Neurology誌にオンライン掲載されました。


図1.累積発症率
症候性キャリアの発症年齢から累積発症率を算出すると,浸透率は年齢依存性で60歳までに95%の症例が発症。
同一年齢では女性の方が有意に累積発症率が高い(中央値:女性40歳,男性45歳)。

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ALSP/HDLS症例に認める特徴的な脳内石灰化像

以前,私たちの研究グループは,頭部CT画像でALSP/HDLS症例に脳内石灰化像がとらえられうることを報告しました(Neurology 2014;82:139-148)。今回,国内の医療機関及びMayo Clinic Jacksonville・Wszolek教授との共同研究により,頭部CT画像矢状断では,石灰化病巣が脳梁に近接する部位を,脳梁を縁取るように飛び石状かつ左右対称性に分布することを発見しました。これまでの経験では,このような石灰化を認め遺伝子検索をした全症例にCSF1R遺伝子変異を見出しており,この極めて特徴的な分布は,ALSP/HDLSの診断に寄与します。また,出生時にすでに脳内石灰化を認めていた症例が存在し,ALSP/HDLSの病態を考える上で重要な発見と思われます。本研究成果は2016年9月15日にAmerican Journal of Neuroradiology誌にオンライン掲載されました。


図2.脳内石灰化像(頭部CT)
A.軸位断では側脳室前角近傍の白質内に両側性に小さい石灰化所見をみとめる。
B.矢状断(図2A内の破線Bの断面)では,脳梁近傍に飛び石状に分布する石灰化所見を認める。

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研究成果・実績
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