2010年5月 日本脳腫瘍病理学会発表
2011年03月01日
概要
神経細胞選択的なPtc遺伝子欠損マウスにおける脳腫瘍の発生
Brain tumors generated in Ptc conditional knockout mice
薄井 宏1、鷲山和雄1、市川富夫1、小林一雄1、阿部 学2、夏目里恵2、崎村建司2
新潟大学・脳研究所・1生命科学リソース研究センター、2細胞生物学分野
【目的】Ptc (Patched)遺伝子は、脳腫瘍の発生頻度が高い基底細胞母斑症候群の原因遺伝子である。Ptc の脳腫瘍発生における役割を解明するために、発生工学的手法でPtcを細胞選択的に欠損した遺伝子改変マウスを作製して解析した。
【方法】遺伝子改変マウスは、C57BL/6由来ES細胞(RENKA株)に相同組み換えベクターを導入して細胞を選択し、初期胚にインジェクション後、仮親の子宮に移植して作製した。Ptc遺伝子については、フレームシフトエクソンをloxP配列で挟む遺伝子改変(flox)を、一方、幼若神経細胞マーカーのTubb3 (Tublinb3)遺伝子には、組み換え酵素Creをノックインする遺伝子改変を行なった。尾DNAの遺伝子型解析によってマウスを選択ながら交配して、Cre/loxPシステムによる神経細胞選択的なPtc遺伝子破壊を行ない、遺伝子改変マウスに発生した脳腫瘍を組織学的に解析した。
【結果】ホモの遺伝子改変マウス(Ptcflox/flox;Tubb3Cre/+)は、新生児期以降生残しなかった。ヘテロの遺伝子改変マウス(Ptcflox/+;Tubb3Cre/+)20匹の観察では、7匹(35%)で小脳原発の脳腫瘍が発生し、8ヶ月齢までに死亡した。残りの13匹では、15ヶ月齢までに腫瘍発生は認められなかった。発生した脳腫瘍の組織像は、細胞質に乏しい小型の未分化な細胞が大部分を占め、PNETと診断された。
【結論】マウスでも、Ptcの機能破壊が脳腫瘍の発生につながることが実験的に示された。脳腫瘍の発生頻度は、単純なPtcヘテロノックアウトマウスよりも高かった。
研究分野
- システム脳病態学分野