2011年6月 日本神経病理学会発表
2011年06月07日
概要
コンディショナルノックアウト法による髄芽細胞腫モデルマウスの作製
Generation of medulloblastoma model mice by conditional knockout technique
薄井 宏1、鷲山和雄1、市川富夫1、小林一雄1、阿部 学2、夏目里恵2、崎村建司2
1新潟大学・脳研究所・生命科学リソース研究センター、2細胞生物学分野
【目的】Ptc (Patched)遺伝子は、髄芽細胞腫の発生頻度が高い基底細胞母斑症候群の原因遺伝子である。コンディショナルノックアウト法を用い、Ptc遺伝子を細胞選択的に破壊することによって髄芽細胞腫モデルマウスを作出し、腫瘍の発生原因解明と治療法の開発に役立てることを目的とした。
【方法】遺伝子改変マウスは、C57BL/6由来ES細胞(RENKA株)に相同組み換えベクターを導入して細胞を選択し、初期胚にインジェクション後、仮親の子宮に移植して作製した。Ptc遺伝子については、フレームシフトエクソンをloxP配列で挟む遺伝子改変(flox)を行い、Cre発現マウスとしては、(1)小脳顆粒細胞選択的なGluRe3遺伝子にCreをノックインしたマウス(GluRe3-Cre)、及び(2)神経前駆細胞で発現するGFAPプロモーターでCreを発現させるマウス(GFAP-Cre)を作製した。Ptcflox/+マウスとCre発現マウスを交配し、得られたマウスに発生した脳腫瘍を組織学的に解析した。
【結果】GluRe3-Creを用いた場合、ホモの遺伝子改変マウス(Ptcflox/flox; GluRe3Cre/+)は、新生児期以降生残しなかったが、ヘテロの遺伝子改変マウス(Ptcflox/+; GluRe3Cre/+)では、37匹中24匹(64.9%)に小脳原発の脳腫瘍が発生し、8ヶ月齢までに死亡した。GFAP-Creを用いた場合、ホモの遺伝子改変マウス(Ptcflox/flox; GFAPCre/+)に100%の確率(20匹中20匹)で脳腫瘍が発生し、2ヶ月齢までに死亡した。発生した脳腫瘍の組織像はいずれも、細胞質に乏しい小型の未分化な細胞から成り、PNETまたはmedulloblastomaと診断された。
【結論】Ptc遺伝子の機能破壊のみで髄芽細胞腫が形成されることを、実験的に示すことができた。
研究分野
- システム脳病態学分野