論文紹介:四連発経頭蓋磁気刺激における対側大脳半球の影響についての体性感覚誘発電位及び近赤外線スペクトロスコピーによる経時的検討

2011年12月25日

概要

当科大学院生の廣瀬先生が福島県立医大で行っていた、反復経頭蓋磁気刺激の研究論文が発表されました。廣瀬先生に解説していただきました。

On-line effects of quadripulse transcranial magnetic stimulation (QPS) on the contralateral hemisphere studied with somatosensory evoked potentials and near infrared spectroscopy.
Exp Brain Res. 2011 Oct;214(4):577-86. Epub 2011 Sep 9.

近年、経頭蓋磁気刺激を用いた研究が盛んに行われており、様々な刺激間隔や強度・時間による反復経頭蓋磁気刺激が今までに施行されています。中でも、近年になり単相性4連発磁気刺激(quadripulse stimulation; QPS)...(4発の高頻度刺激(burst)を5秒おきに30分間繰り返す方法)によってヒト運動野の興奮性を変化させることができることが明らかとなっています。
具体的にはパルス間隔が5msの場合(QPS-5)は長期増強、50msの場合(QPS-50)は長期抑制様変化(after effect)を刺激部位に誘導することが示されています。
今回我々が行った研究としては、
実験1:2分間本手法で刺激したときの刺激中と刺激後の対側半球への効果について、体性感覚誘発電位 (SEP)と近赤外線スペクトロスコピー ( NIRS:大脳皮質の酸化ヘモグロビンと二酸化ヘモグロビンの濃度変化を経時的に調べる機械です) を用いて検討しました。
実験2:30分間の運動野に対するQPS刺激後の対側感覚野への効果(after effect)についてもSEPを用いて検討しました。
実験1は具体的には、刺激最中の効果を見るためには2分間のQPS-5またはQPS-50で左一次運動野を刺激した後に3分間の無刺激時間をおく、という操作を3回繰り返し、SEPについては刺激前、刺激中、刺激後の各15分間について計測し、sensory nerve action potential (SNAP)、N20 onset-peak、N20-P25、P25-N33について分析・比較しました。
またNIRSを用いて、刺激前、刺激中、刺激後の計15分間の対側半球のM1及び近傍の部位(感覚野・補足運動野) の酸化ヘモグロビンと二酸化ヘモグロビンの濃度変化を測定・検討しました。
実験2は具体的には30分間のQPS-5とQPS-50の刺激前後で、前述のSEPの各成分の振幅の経時的な変化について分析・比較しました。
実験1の結果としては、SEPについてはN25-P33の振幅に関してはQPS-5およびQPS-50ともに刺激中の有意な振幅増大を認めましたが、しかしながらNIRSについてはsham刺激と比較して、QPS-5とQPS-50ともに対側の感覚野を含む大脳皮質の酸化ヘモグロビン濃度の低下(≒大脳皮質の機能の抑制を意味します)を認めました。
実験2の結果としては、30分刺激後のSEPの経時的な変化としては、刺激前(baseline)に比してQPS-5では45,60,90分後に有意なP25-N33の振幅増大を認めましたが、QPS-50については刺激前と比較して明らかな差を認めず、むしろ振幅の低下傾向を認めました。
既報では、同側半球におけるQPSによるafter effectは双方向性であることが示されおり、対側感覚野に対するafter effectも双方向性であるという報告が見られます。
しかしながら、今回我々が行った実験では対側半球の刺激中の効果はNIRS、SEPともに同方向性でした。またこの刺激中の効果に関しては、電気生理学的検査の結果(SEPにおけるP25-N33の振幅の増大)と血行動態の変化には(NIRSにおける感覚野を含むOxy-Hbの低下)には解離が認められました。
対側半球において刺激中の効果がNIRS、SEPともに同方向性であるにもかかわらず、刺激後の効果がSEPにおいて双方向性であることについては、刺激中の効果は細胞膜・シナプスの純粋な電気生理学的な変化を反映し、刺激後の効果は蛋白合成などの機序を含んだ何らかのシナプスの機能変化を反映しているためと推測しました。
また刺激後におけるSEPとNIRSの結果の解離については、QPSにより生じた刺激側の感覚野の変化が対側半球に与える影響や、あるいは対側の感覚野に生じた血流・生理学的機能の変化が同側感覚野の血流や生理学的機能の変化に影響を与えていることにより説明しうると推測しました。
人間の大脳の興奮性、運動野と感覚野との関係などにはまだまだ不明な点が多いのですが、これからも地味な分野ではありますが研究を続けていくと患者さんへの応用など、様々な可能性を秘めた分野だと考えています。

研究分野

研究成果・実績
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