論文紹介:多系統萎縮症における日中の眠け
2012年11月06日
概要
多系統萎縮症における日中の過度の眠気について,当科の下畑享良先生らが検討し論文として報告いたしました.当院第2内科(呼吸器内科),耳鼻咽喉科との共同研究です.下畑享良先生に解説していただきました。
多系統萎縮症(MSA)では多彩なメカニズムによる睡眠呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群)を来すことが知られています.新潟大学医歯学総合病院では神経内科,呼吸器内科,耳鼻咽喉科などが共同し2011年からこの問題に取り組んできました.睡眠時無呼吸症候群は睡眠呼吸障害により日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness;EDS)を来した状態を言います.
最近,ヨーロッパからMSAのEDSの頻度について報告があり(SLEEMSA study),MSA患者さんでは健常者の2%と比較し,28%と有意に多いことが報告されました.しかしながらその影響因子,予測因子については不明で,日本人においてはEDSの頻度自体も報告されていませんでした.このため新潟大学では,日本人におけるEDSの頻度およびその影響因子を検討したのでその結果をご紹介いたします.
方法はGilman分類のprobable MSAを対象にしました.EDSの頻度はEpworth睡眠尺度日本語版(JESS)を用いて検討しました(24点中11点以上がEDS).ポリグラフ検査(PSG)で評価した睡眠呼吸障害や周期性四肢運動症の重症度がEDSの程度に影響を及ぼすかどうかを検討しました.
さて結果ですが,25名のprobable MSA患者さん(MSA-C 21名,MSA-P 2名)を対象としました.対象者全例でポログラフ検査(PSG)を行いました.平均ESSスコアは6.2±0.9点(0-15点)で,問題のEDSの頻度は24%とヨーロッパにおける報告と同等でした.睡眠呼吸障害(定義;AHI≧5/hr以上)は24人(96%),周期性四肢運動症(定義;PLM index>15/hr)は11人(44%)に認められましたが,SDBを認めた症例におけるEDSの頻度は25%,周期性四肢運動症では18%と必ずしも高いわけではありませんでした.さらに睡眠呼吸障害の程度,周期性四肢運動症の程度のいずれもESSスコアと相関しませんでした. 11人がパーキンソニズムに対し抗パーキンソン病薬を内服していましたが,その11人において抗パーキンソン病薬のl-dopa換算量はESSスコアと相関しました(r=0.662,p=0.027).またレストレスレッグス症候群は12.5%(3/25)の症例に認められ,高頻度でした.
以上より日本人のMSA患者さんも眠気の頻度は高いことが分かりました.睡眠呼吸障害も周期性四肢運動症もMSA患者さんでは高頻度に認められましたが,予想に反してそれらの重症度は眠気の程度とは相関しませんでした.EDSの改善のためにはその影響因子についてのさらなる検討が必要ですが,可能性としては眠気・覚醒を知覚するシステムにも変化が及んでいる可能性や,パーキンソン病における眠気に影響をおよぼす因子として知られる夜間頻尿,寝返りを打てないような運動障害,うつ,幻覚,精神症状,レストレスレッグス症候群,抗パーキンソン剤などが影響している可能性が考えられました.
Daytime sleepiness in Japanese patients with multiple system atrophy: prevalence and determinants
BMC Neurology 2012, 12:130 doi:10.1186/1471-2377-12-130(オープンアクセスですので自由にダウンロードできます)
http://www.biomedcentral.com/1471-2377/12/130/abstract