論文紹介:小脳型進行性核上性麻痺(PSP-C)の病初期の臨床症候
2013年08月06日
概要
当科および病理学教室は共同して,進行性核上性麻痺(PSP)では小脳症状を主徴とするサブタイプ(PSP-C)が存在することを報告してまいりました.病初期に小脳性運動失調を主徴とするため,多系統萎縮症小脳型(MSA-C)がPSP-Cの鑑別にあがることがあります.今回,PSP-CとMSA-Cの病初期の臨床症候の相違点を検討し,何が鑑別のポイントになるかを報告しました.以下,金澤雅人先生の解説です.
Masato Kanazawa, M.D., Ph.D., Mari Tada, M.D., Ph.D., Osamu Onodera, M.D., Ph.D., Hitoshi Takahashi, M.D., Ph.D., Masatoyo Nishizawa, M.D., Ph.D., Takayoshi Shimohata, M.D., Ph.D.
Early clinical features of patients with progressive supranuclear palsy with predominant cerebellar ataxia Parkinsonism & Related Disorders
進行性核上性麻痺(PSP)は,パーキンソン症状に加えて,核上性垂直性眼球運動麻痺,転倒,姿勢反射障害,認知障害を主徴とします.しかし,近年,すくみ足や純粋無動のみの症例,失行や他人の手兆候といった大脳皮質症状主体の症例など臨床所見の多様性が明らかになってきました.2009年我々は,病理学的にPSPと診断した22例の臨床・病理所見を再度検討して,臨床病理学的多様性を確認しました.特に病初期から小脳性運動失調を主徴とするPSP(PSP-C)が存在することを明らかにしました(Mov Disorders 24; 1312-8, 2009,Parkinsonism and Related Disorders 18; 677-9, 2012).このような症例と病初期に鑑別にあがる多系統萎縮症小脳型(MSA-C)と鑑別のポイントを明らかにするために,今回,病理学的にPSP-CとMSA-Cと診断した症例の病初期の臨床症候を検討しました.
対象は当施設において,病理学的に診断確定しましたPSP-C症例とMSA-C症例を対象としました.臨床症候については発症2年までの早期で認めたか否かを後方視的に調べ,MRI撮像例はその所見を検討しました.PSP-C 4例,MSA-Cは11例存在し,初発症状では,両者はほぼ同様であり,鑑別困難であるものと考えられました.また,PSP-Cの方が高齢の発症で,病初期における転倒や核上性垂直眼球運動麻痺を高率に認めました. 一方,MSA-Cの方が自律神経症状を高率に認めました.PSP-C 2例でMRIを撮像していましたが,発症2年ではMSA-Cで特徴的なhot cross bun signやputaminal slit signは認めず,小脳・脳幹の萎縮も明らかではありませんでした.
高齢で発症すること,転倒のエピソード,核上性垂直眼球運動麻痺を認めることはPSPの特徴的な症候である一方,自律神経症状はPSPではまれな症候です.病初期においてもこれらの症候を有することが遅発性小脳失調症の中で,PSP-Cを疑う所見であると考えました.