難病「肥厚性硬膜炎」の病態を解明 -新たな疾患概念の確立に期待-
2013年11月26日
概要
新潟大学脳研究所神経内科学分野の河内泉 病院講師, 横関明子 大学院生, 西澤正豊 教授らの研究グループは, 脳を覆う硬膜に慢性的に炎症がおきる「肥厚性硬膜炎」の病態を解明しました。肥厚性硬膜炎は, 再発性・難治性の頭痛, 難聴, 視力障害などの脳神経麻痺, ふらつき, 手足のまひ, けいれんなどを起こすこともある難病です。今回, 好中球に対する自己抗体 (抗好中球細胞質抗体; ANCA) と関連した肥厚性硬膜炎の特徴と病態を明らかにしました。病態に応じた適切な治療を受けることで肥厚性硬膜炎を持つ患者さんの生活の質が向上することが期待されます。
本研究の成果は2013年11月22日にBrain誌のオンライン版で公開されました。
1. 研究の概要
肥厚性硬膜炎とは脳や脊髄を包んでいる硬膜に慢性的な炎症がおき, 硬膜が肥厚する病気です。これまでに, 結核や真菌症などの感染症, 膠原病をはじめとする自己免疫疾患(自分の身体を攻撃する免疫成分を持ち, そのアンバランスが病因と考えられる疾患)などが原因となって発症することが知られていましたが, その特徴と病態は十分にわかっていませんでした。
本研究グループは, 好中球に対する自己抗体 (抗好中球細胞質抗体; ANCA), 中でもミエロペルオキシダーゼ (MPO) に対する自己抗体 (MPO-ANCA) に関連した自己免疫性肥厚性硬膜炎を解析し, 以下の点を明らかにしました。
1) 中高年女性に多い,2) 多発血管炎性肉芽腫症 (Granulomatosis with Polyangiitis; GPA) (旧称; ウェゲナー肉芽腫症) の中枢神経病変の一つである, 3) 中耳炎をはじめとした上気道炎を併発することが多い, 4) 硬膜と上気道に病変が限局する限局型が多く, 腎臓や肺に病変を持つ全身型に進展することは少ない, 5) 肥厚した硬膜にはTh1型免疫細胞を含む炎症性肉芽とリンパ濾胞構造を認め, その場で自己抗体が産生されている可能性が高い, 6) 副腎皮質ステロイド剤とサイクロフォスファミドを併用した治療が有効である。
以上から, 本邦で自己免疫性肥厚性硬膜炎の約半数を占める「MPO-ANCAに関連した肥厚性硬膜炎」は, 「GPA・ANCA関連血管炎の重要な中枢神経病変の一つであり, GPAと同様に, 副腎皮質ステロイド剤とサイクロフォスファミド併用療法が有効である」と考えられました。本研究は, 肥厚性硬膜炎の疾患概念の確立にとどまらず, 血管炎症候群の新たな免疫病態の解明に貢献すると考えられます。
近年, MRI検査の普及により, 肥厚性硬膜炎の報告数は増加してきています。本研究に基づき, 肥厚性硬膜炎を適切に分類し, 適切な治療法を早期から選択することができれば, 頭痛や難聴などの脳神経麻痺の重症化や再発を予防でき, 患者さんと家族の生活の質が向上することが期待されます。
2. 論文タイトルと著者
Akiko Yokoseki, Etsuji Saji, Musashi Arakawa, Takayuki Kosaka, Mariko Hokari, Yasuko Toyoshima, Kouichirou Okamoto, Shigeki Takeda, Kazuhiro Sanpei, Hirotoshi Kikuchi, Shunsei Hirohata, Kohei Akazawa, Akiyoshi Kakita, Hitoshi Takahashi, Masatoyo Nishizawa, and Izumi Kawachi.
Hypertrophic pachymeningitis: significance of myeloperoxidase anti-neutrophil cytoplasmic antibody. Brain online 22 NOV 2013. DOI:10.1093/brain/awt314.
図. MPO-ANCA陽性肥厚性硬膜炎の頭部MRI画像
難治性の頭痛を持つ場合, 肥厚性硬膜炎が隠れていることがある。矢頭が肥厚した硬膜。