論文紹介:CBSの病理と診断基準の感度
2013年12月09日
概要
当科および病理学教室は共同して,大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome)の背景病理,ならびにその臨床的特徴について検討を行い,今回,Movement Disorders誌に報告しました.以下,下畑享良先生の解説です.
大脳皮質基底核変性症(CBD)は,典型的には大脳皮質徴候(肢節運動失行,観念運動失行,皮質性感覚障害,他人の手徴候,ミオクローヌス)と,錐体外路徴候(無動,筋強剛,ジストニア)を主徴とする神経変性疾患です.しかし剖検例の集積により,CBDの臨床像はきわめて多彩であることが明らかになり,近年,病理診断名としてCBD,臨床診断名としてcorticobasal syndrome(CBS)が用いられるようになりました.
またCBSの背景病理としては,CBDのほか,進行性核上性麻痺(PSP)やアルツハイマー病(AD)など多彩であることが報告されています.CBSの臨床診断基準としてはMayo基準や改訂Cambridge基準が用いられますが,これに加えて,剖検にて診断が確定したCBD症例の症候の解析結果に基づき作成したCBDの臨床診断基準(Armstrongら.2013)も提唱されました.しかし,これら診断基準の感度・特異度に関しては不明で,さらに本邦におけるCBS症例の背景病理についても十分に明らかにはなっていません.今回,脳研究所病理学分野との共同研究にて,CBS症例の背景病理と,上記の診断基準の感度を検討しMov Disord誌に報告いたしました.
対象は上記のCBS臨床診断基準のいずれかを満たし,かつ病理診断名が確定している症例としました.背景病理と,全経過および発症後2年以内において,各症例がどの程度,臨床診断基準を満たすかを検討しました.また各背景病理を示唆する臨床症候についても検討しました.
対象は10例(67.9 ± 9.3歳,男:女=6:4)で,病理診断はCBD 3例,PSP 3例,AD 3例,いずれにも該当しない非典型的4リピート・タウオパチーが1例でした(非典型的タウオパチー症例は,臨床的にはCBSの症候のほかに認知症を伴わない運動ニューロン徴候を呈しました).CBSの診断基準に関しては,全経過では9例がMayo基準を,10例全例が改訂Cambridge基準を満たしましたが,発症2年以内に限ると各診断基準1例ずつしか満たしませんでした.
一方,CBDの臨床診断基準に関しては,全経過では5例(CBD 3例,PSP 1例,AD 1例)がclinical criteria for possible CBD(p-CBD)を満たし,1例(AD 1例)がclinical research criteria for probable sporadic CBD(cr-CBD)を満たしました.発症後2年以内に限ると,p-CBDを1例(AD 1例)で,cr-CBDを1例(AD 1例)で満たすのみでした.つまりCBDの臨床診断基準の感度に関しては,全経過ではCBD 3例全例がCBDの臨床診断基準を満たしましたが,発症後2年以内に限定すると1例も満たしていませんでした.特異度については背景病理がCBDでない3例(PSP 1例,AD 2例)も,全経過において診断基準を満たしたことから高くないことが分かりました.
背景病理を予見する神経症候の検討では,CBDに特徴的な症候は認めなかったものの,PSPのみ開眼失行や小脳性運動失調を呈する症例が存在しました.またミオクローヌスや早期からの記憶障害はADにのみ認められました.
以上より結論として以下のことが分かりました.
1) 日本人のCBSの背景病理も多彩で,海外と同様に,CBD,PSP,ADの頻度が高い.
2) CBSの臨床診断基準は発症2年の早期に限定すると感度が低い.
3) CBDの臨床診断基準も発症2年の早期では感度が低く,かつ特異度も低い.
4) 背景病理を予測する症候として,開眼失行,小脳性運動失調,ミオクローヌス,早期からの記憶障害が有用な可能性がある.
今後,多数例を対象とした前方視的検討による確認が必要と考えられました.
Mov Disord. 2013 Nov 20. doi: 10.1002/mds.25746. [Epub ahead of print]
Pathology and sensitivity of current clinical criteria in coritcobasal syndrome.
Ouchi H, Toyoshima Y, Tada M, Oyake M, Aida I, Tomita I, Satoh A, Tsujihata M, Takahashi H, Nishizawa M, Shimohata T.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/mds.25746/abstract