2014年10月07日

イベント

第44回夏期セミナーを終えて

2014年夏期セミナーの2日目(8月1日)は、2本立ての基礎系セミナーが開催されました。

1つ目のセミナーは「個性化する神経細胞の分子基盤と脳機能」でした。脳が高度な情報処理を実現する基盤として、複数の神経細胞が集団的・協調的に活動するセルアセンブリなどの回路単位が存在すると考えられています。しかし、神経細胞同士が無秩序に結合するのでなく、ある細胞が特定の回路に属し機能するには、細胞が個性を持ち、さらに細胞間の親和性を決める何らかの機構が必要です。近年、細胞間の親和性の決定に、クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)という神経細胞特異的接着因子が関わっていると注目を集めています。本セミナーは3名の先生方にcPcdhを軸にお話頂きました。当分野の吉武講平先生には、大脳高次連合野の機能とcPcdhの関連についてお話頂きました。大阪大学の八木健先生はcPcdhの発見者でおられますが、cPcdhの基本的な性質を分かりやすくお話頂きました。生理学研究所の吉村由美子先生は、大脳皮質でセルアセンブリ構造を発見された先生ですが、cPcdhがニューロン同士の結合にどの様に関与するかパッチクランプを用いた詳細な解析をお話頂きました。cPcdhの分子的性質・cPcdh依存的な神経結合・高次脳機能まで一貫した講演になり、cPcdhが開く新しい時代が感じられました。

2つ目のセミナーは「遺伝子改変動物:次世代のモデル動物」でした。現在、遺伝子改変技術は主にマウスを対象に用いられています。しかし近年、さらに高度でヒトに近い動物を用いた積極的な実験を望む声が高まりつつあり、かつ、次第に手が届くようになってきました。その現状を遺伝子改変動物の開発に関して著明な2名の先生方からご講演頂きました。世界に先駆けて遺伝子改変マーモセットを作成された実験動物中央研究所の佐々木えりか先生から、次世代の実験動物として新たに注目されているマーモセットの基本的な性質と遺伝子改変動物開発の現状について詳しくお話頂きました。マーモセットが次世代の遺伝子改変動物として非常に有望であることが理解出来ました。その一方で、理化学研究所の内匠透先生からは、ご自身の開発された自閉症ヒト型モデルマウスの包括的な解析を元に自閉症研究の最前線を講演頂き、マウスはやはり強力なモデル動物であることも再認識出来ました。さまざまなモデル動物の研究結果を組み合わせて行くことで、包括的に脳や疾患を理解していくことが極めて重要だと感じました。

今回のセミナーは多岐に渡った内容でしたが、いずれも今後の神経科学にとって重要なトピックであり、演者の先生方は基本的な内容から丁寧にご説明して下さいましたので、どのバックグラウンドを持つ聴講者にとっても有意義なセミナーになったのではないかと思います。

文責:システム脳生理学分野、塚野 浩明


夏期セミナー3日目は,「神経疾患とバイオマーカー:われわれは神経疾患の予後を予測できるか?」というタイトルで,現在,臨床現場において,診断や予後,治療効果の判定に応用が期待されているバイオマーカーについて議論をいたしました.さまざまな神経疾患の領域で,最先端の研究を行っておられる講師の先生方にご講演をいただき,会場には多くの聴衆が集まりました.

まず総論を新潟大脳研究所の池内健先生が担当し,「次世代のバイオマーカーに求められるもの」を分かりやすくご講演いただきました.つぎに疾患の各論に移り,変性疾患としては,京府医大徳田隆彦先生が「神経変性疾患をバイオマーカーで診断?」と題して,パーキンソン病などのシヌクレイノパチーの現状を,名古屋大学熱田直樹先生は「ALSの予後・進行予測マーカー」と題して,JaCALS研究を中心に,筋萎縮性側索硬化症の現状をご講演くださいました.続いて,脳梗塞,脳腫瘍,精神疾患に移り,九大吾郷哲朗先生が「脳梗塞と血液バイオマーカー」,東京女子医大渡辺伸一郎先生が「胚細胞腫の高感度PLAP測定法の確立」,都医学研糸川昌成先生が「統合失調症の原因解明に挑む」と題してご講演くださいました.最後に神経免疫疾患に移り,生理研深田正紀先生が「免疫性脳炎:自己抗体によるシナプス機能異常」,新潟大脳研究所河内泉先生が「多発性硬化症のバイオマーカーとその臨床応用」と題してご講演くださいました.チャレンジングな内容で,聴衆をワクワクさせるものでした.

非常に広範囲に及ぶ,盛り沢山な内容でしたが,講師の先生方のとても分かりやすいご講演により,バイオマーカー研究の現状と今後の方向性を学ぶことができ,大変有意義なシンポジウムとなりました.

文責;下畑享良(神経内科)

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