"頭部専⽤ PET 時代の到来 - 理想的な装置を⾃ら開発する"
1975 年のPETの登場により,15O による脳局所の脳⾎流量・脳酸素代謝率・脳⾎液量の画像化が可能になった。その後 PET は、18F-FDG を検査薬として⽤いる全⾝のがん診断⽤に発展してきた。脳研究においては感度や定量性の点でいまだにPET への期待は⼤きいものの、選択肢はがん診断⽤のPET装置しかなく、脳研究はMRI で出来る研究にシフトしつつある。しかし、このような現状はこれから⼤きく変わるかもしれない。 PET の⽋点としてよく⾔われるのが、分解能・被ばく・コストである。しかし、部位別という概念を導⼊すると、これらのネガはすべて解決可能である。量⼦科学技術研究開発機構イメージング物理研究グループでは、来る認知症PET時代を⾒越して、頭部専⽤PET装置の理想形を追い求めてきた。⾏きついたのが、検出器を従来の円筒形から半球形に変えたヘルメット型PET装置である。検出器を頭部に近づけることで分解能と感度があがる。感度が上がると必要な放射能の量が減り、被ばくの⼼配もより軽減される。また、使う検出器数が減り設置⾯積も⼤幅に⼩さくなる ことから、コストダウンにも効果的である。 ⾰新的アイディアを絵にかいた餅で終わらせないのがイメージング物理研究グループのポリシーである。医療分野に参⼊すべく新技術を求めていた(株)アトックスとの出会いに恵まれ、本装置は2022 年1 ⽉に製品名「VRAIN」として実⽤化に⾄った[1][2][3]。 VRAIN はPET単独機であるが、脳研究分野ではPET とMRI の同時撮像へのニーズは⼤きい。PET/MRI ⼀体型装置はすでに市販されているが、がん診断⽤の設計のため、⾼価・⼤型であ り脳研究⽤としての導⼊は慎重にならざるを得ない。そこで着想したが、既存MRI に後付して使えるPET 装置「add-on PET」である。具体的には、MRI 頭部⽤コイルにPET検出器を内蔵した試作機を開発し、3T-MRI を⽤いた臨床研究の実施に成功した。
[1] G. Akamatsu, et al., Phys. Med. Biol. 67, 225011 (2022). [2] M. Takahashi, et al., EJNMMI Physics. 9:69 (2022). [3] Y. Iwao, et al., Ann. Nucl. Med. 36, 904 (2022).

へルメット型 PET「VRAIN」(左)と add-on PET 試作機(MRI 同時撮像テスト)(右)
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