内 容 |
"脳内⽬的地地図による探索シミュレーション"
脳は単に、与えられた刺激に対する反応を最適化するだけの機械ではない。脳の最⼤の 特徴の⼀つは、たとえ現実の世界で経験したことのない事象に対しても、それによって 起こりうる結果をシミュレーションできる能⼒である。この神経回路基盤を理解するた めに、私たちの研究グループは、たとえ知覚の届かない遠くの⽬的地に対しても最適な 経路を発⾒できる、ラットの空間探索能⼒に注⽬してきた。この能⼒は、計画した⾏動 に対して⾃らの空間位置を推定するための、脳内に形成される空間地図 "cognitive map" によって⽀えられていると考えられている。これまで、脳内地図に関する研究は海⾺や 嗅内⽪質などが中⼼だったが、これらの神経細胞の活動は、動物⾃⾝の位置とその周辺 を主に表現することが知られている。⼀⽅で、我々は最近、脳にはもう⼀つの脳内地図 が眼窩前頭⽪質(OFC)に存在し、これらの細胞は、探索の間中、動物の⽬標到達点を 指し⽰し続けていることを発⾒した(Basu et al., Nature 2021)。本セミナーでは、まず、 探索中ラットからの⼤規模⾼密度記録から明らかになった、この新しく発⾒された脳内 ⽬的地地図のいくつかの特徴について説明する。次に、この⽬的地地図が、どのように 海⾺の脳内地図と相互作⽤し、探索計画を⽣成しうるのかを議論する。最後に、⽬的地 決定における OFC 地図と中脳ドーパミン系との関係を議論し、"mental travel"を可能に する神経回路についての新しい視点を提供する。
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