香君
私は上橋菜穂子さんの小説は全部読んでいるのですが、香君を遅ればせながら拝読しました。獣の奏者が大好きですが、他もとてもおもしろいです。獣の奏者は最後が少し切ないので、香君のような終わり方もいいと思います。特に獣の奏者、鹿の王、香君の3作はスタイル似ていますけど、その前の例えば狐笛のかなたなども少し違う雰囲気ですがとてもいい作品です。
ところで獣の奏者、鹿の王、香君を読めばわかると思いますが、生き物というものは微妙で壮大な連関の中に生きています。人間や動物個体も細菌やウイルスとの共生で成立していますし、野原も社会ももっともっと複雑です。社会環境も個体環境も刻々と変わります。そうでなくても生命の連鎖のちょっとした変化が劇的なサバイバルにつながることもままあります。その変わった環境でも、当然のことながら生存に必要な能力が異なった場合でも、なんとか生き延びたものが種として生き残っています。それを「強い」とか「優秀」とか言う必要はないですが、強いて言えば多様性こそが「強靭さ」です。「優秀な」遺伝子、「優秀な」個体を残そうという動きは変わらず各地で見られますが、思い上がりも甚だしく、そもそも人間には何が「優秀か」はわからないのです。本を読む子供たちにもそのことを知ってほしいと思います。