研究: 神経変性
細胞を守る仕組みは、なぜ破綻するのか
アルツハイマー病に関わるAPPは、アミロイドβのもとになるタンパク質です。しかし、APP自身は細胞の中で何をしているのでしょうか。パーキンソン病では、ミトコンドリアとリソソームの異常が、どのようにつながって神経細胞を傷つけるのでしょうか。私たちは、核やミトコンドリアに由来する不要物の処理に注目し、細胞を守る仕組みと、その破綻から脳の病気を問い直しています。
私たちの発見 — APPが「核のごみ」を出して細胞を守る
私たちは、APPが、傷ついた核から漏れ出すDNAや核タンパク質などの不要物を細胞外へ排出し、細胞を守る働きを見いだしました。この排出には、リソソームが細胞膜と融合して内容物を外へ放出する「リソソームエキソサイトーシス」が関わります。
培養細胞やマウス脳では、核が傷つく条件でAPPを減らすと、核由来の不要物が蓄積し、細胞の障害が悪化しました。家族性アルツハイマー病に関連する変異型APPでは、通常のAPPに見られる保護効果が十分に認められませんでした。患者さんの剖検脳でも、核の異常や核由来物質の蓄積、神経細胞あたりのAPP量の低下を確認しました。
この発見から、APPを「アミロイドβの材料」だけでなく、「核の損傷から細胞を守る分子」として捉え直しています。
代表論文: Dougnon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2026. doi:10.1073/pnas.2524190123 / 脳研の解説

私たちの発見 — ミトコンドリアDNAの細胞質への蓄積
2021年のNature Communicationsでは、培養細胞とゼブラフィッシュのパーキンソン病モデルで、ミトコンドリアDNA(mtDNA)が細胞質へ漏れ出して蓄積し、炎症や神経変性につながることを報告しました。
細胞では、DNAを分解する酵素DNase IIを増やしたり、DNAを感知する分子IFI16を減らしたりすることで、炎症や細胞死が抑えられました。gba変異ゼブラフィッシュでも、ヒトDNase IIの発現を増やすことで、運動障害やドーパミン神経の減少が改善しました。パーキンソン病患者さんの剖検脳でも、細胞質のmtDNAとIFI16の蓄積を認めました。
代表論文: Matsui et al., Nat. Commun., 2021. doi:10.1038/s41467-021-23452-x / プレスリリース(PDF)

細胞・動物での発見を、ヒトの病気につなぐ
培養細胞、ヒトiPS細胞由来神経細胞、小型魚類、マウス、ヒト剖検脳を、問いに応じて組み合わせます。細胞や動物で見つけた仕組みを、脳研究所のブレインバンクを通じたヒト疾患脳の解析と照らし合わせられることが強みです。アルツハイマー病やパーキンソン病に加え、ALSや多系統萎縮症にも取り組んでいます。
ここから先を、一緒に考える。
神経変性
問い 脳疾患の原因となる分子は、細胞の中でどのような生理機能を担っているのか。
次に問いたいこと
- APP、APOE、αシヌクレイン(SNCA)などの分子は、細胞を守る仕組みにどう関わるのでしょうか。その働きの変化や破綻は、どのように病気につながるのでしょうか。
- かつて細菌だったミトコンドリア。そのDNAが細胞質へ漏れ出すと、なぜ神経細胞は「異物」として感知するのでしょうか。
関心のある人へ アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSなどの神経変性、細胞生物学、蛋白質の生理機能に関心がある人。
テーマは、研究室の基盤と本人の関心・強みを出発点に、議論しながら具体化します。最初の計画をなぞるだけでなく、得られた結果から問いを育て、自分の研究へ発展させることを重視します。