研究: 神経変性

DNAの漏出が惹起する神経変性

パーキンソン病は運動障害やそれ以外の多彩な症状を呈する神経難病の1つであり、未だにその病態には不明な点が多く残されています。パーキンソン病の病態にミトコンドリア機能障害やリソソーム機能障害が関わっていることは以前より示唆されてきましたが、その詳細なメカニズムはわかっていませんでした。これまで私達はパーキンソン病に関する病態解析や新規モデルを多数報告してきました(論文欄を参照)。ここでは最新のものについて記載します。

2021年にNature Communicationsに発表した研究では、パーキンソン病のモデルである培養細胞やゼブラフィッシュにおいて、ミトコンドリア由来のDNAが細胞質に漏出し細胞毒性および神経変性を誘導することを報告しました。培養細胞ではパーキンソン病に関連する遺伝子産物であるPINK1、GBA、またはATP13A2の減少は、ミトコンドリア由来の細胞質DNAの増加を引き起こし、I型インターフェロン応答と細胞死を誘導しました。これらの表現型は、DNAを分解するリソソーム内のDNA分解酵素であるDNase IIの過剰発現、またはミトコンドリアDNAのセンサーとして機能するIFI16の減少によって改善しました。パーキンソン病モデルとして用いられるゼブラフィッシュの1つであるgba変異体においても、ヒトDNase IIを過剰発現させることにより、その運動障害とドーパミン作動性神経の変性が改善されました。ミトコンドリア由来のDNAが細胞質に漏出するイベント、そしてそのセンサーであるIFI16は、パーキンソン病患者の剖検脳の病変部位において蓄積を認めました。非常によく管理された疾患脳を研究に利用できる点は私たちのラボの特徴の1つです。

以上の結果は、ミトコンドリアDNAの細胞質への漏出がパーキンソン病の神経変性の重要な原因となる可能性を示唆しています。細胞質に漏出したミトコンドリアDNAの分解、あるいはそのミトコンドリアDNAセンサーの阻害が、パーキンソン病の治療につながる可能性があります(Matsuiet al., Nat. Commun., 2021、プレスリリース: https://www.bri.niigata-u.ac.jp/research/result/210521.research_findings.pdf)。


現在はパーキンソン病の病態をさらに深く解析するとともに、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多系統萎縮症などの神経難病に関してもその病態の謎を新しい視点から解明しようとしています。