研究: 発達障害
問題設定
ゼブラフィッシュの小脳は、ヒトのような目立ったしわがなく、均一に見えます。それでも、場所によって役割は違うのでしょうか。私たちは、小脳の神経回路と活動を対応づけることで、その機能地図を描いてきました。さらに、遺伝子や環境の違いが感覚処理や社会行動をどう変えるかを調べ、発達障害の理解につなげようとしています。
私たちの発見 — 小脳の機能地図
ゼブラフィッシュの小脳からほかの脳領域へ情報を送る経路(遠心路)を明らかにし、遊泳時や眼振時の神経活動をカルシウムイメージングで描出し、解剖学的地図と活動地図が対応することを示しました。光遺伝学で特定の領域の活動を変えると、対応する行動にも変化が生じました。2014年にPNASに掲載されました。
代表論文: Matsui et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2014. doi:10.1073/pnas.1403105111

私たちの発見 — 同じ遺伝子変異でも、環境で社会行動が変わる
Angelman症候群や自閉スペクトラム症(ASD)に関連するUBE3Aについて、ゼブラフィッシュのube3aを欠損した個体で、社会行動が環境要因でどう変わるかを調べました。不安を誘発する白い発泡スチロール水槽では仲間に近づかず社会性が低下し、馴染みのある環境に近い透明アクリル水槽では社会的ふるまいが改善しました。遺伝子発現と脳活動マッピングから、視覚情報処理の異常と不安の亢進が示されました。遺伝的素因をもつ個体の社会性は環境で大きく修飾されうる、という結果です(Dougnon and Matsui, Molecular Psychiatry, 2025)。 doi:10.1038/s41380-025-03180-0 / プレスリリース

ヒト疾患との接続
現在は魚やヒトの小脳、とくに大脳と関わる部分が発達障害とどう関連するかを検証し、自閉症やADHDをより深く理解する研究を進めています。
ここから先を、一緒に考える。
発達障害
問い 脳の発達や行動の特性は、遺伝子と環境によってどう変わるのか。
これまでの発見 ゼブラフィッシュ小脳の出力は機能的に領域化しており、2014年のPNASで示した。ube3a欠損魚では、不安を誘発する環境で社会性が落ち、馴染みの環境では改善する(Molecular Psychiatry, 2025)。
次に問いたいこと
- 脳は社会行動や感覚の処理にどう関わるのか。その理解を、一人ひとりの特性に合った環境や支援へ、どうつなげられるのか。
- 同じ遺伝子変異をもっていても、環境しだいで社会性が変わるのはなぜか。
使えるアプローチ 小型魚類の行動解析、カルシウムイメージング、遺伝子改変を組み合わせます。回路の問いは光遺伝学や活動マッピングで詰め、分子の問いは遺伝子発現解析と接続します。
関心のある人へ 発達障害、社会行動、小脳、感覚処理に関心がある人。行動実験と画像解析のどちらからでも参加できます。
- Dougnon, G., Matsui, H.*. Environmental context modulates sociability in ube3a zebrafish mutants via alterations in sensory pathways. Mol. Psychiatry. 2025. doi:10.1038/s41380-025-03180-0
- Matsui, H.*, Namikawa, K., Babaryka, A. and Köster, R. Functional regionalization of the teleost cerebellum analyzed in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2014. doi:10.1073/pnas.1403105111
テーマは、研究室の基盤と本人の関心・強みを出発点に、議論しながら具体化します。最初の計画をなぞるだけでなく、得られた結果から問いを育て、自分の研究へ発展させることを重視します。