研究概要

クリーンベンチでの細胞培養作業
実験の様子。培養室のクリーンベンチでの作業。

脳疾患〜アルツハイマー病・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症などの神経難病、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、そして更には発達障害・精神疾患など〜はその多くが治療や対処が困難で、罹患数が多い疾患や障がいも多く、医学的・社会的に非常に重要な課題です。

私たちの研究室は次の三つを目指しています。

  • 難病を克服する
  • 障がいを支え合う
  • 科学の歴史を刻む

1. ヒトは多種多様であることを遠い昔に選んだ生物の子孫です

ヒトは受精卵から様々な発生過程を経て成長していきます。元来生物は細胞分裂で増えることで親と子は同じ遺伝子を持つものでした。しかし、ヒトの遠い祖先にあたる生物は両親からそれぞれ遺伝子を受け継ぎ、さらに様々な遺伝子の変化を許容することにより、子が両親や兄弟とは異なる遺伝子をもつという選択肢をとりました。そのためヒトは様々で個々に違うことが当然であり、それが種全体としては、環境の変化に強い、力を合わせることできる、などのとても魅力的な形質につながっています。

2. 老化と加齢関連疾患

この形質のためにヒトには世代を超えてつながる生殖細胞と、それを守る体細胞があります。ヒトが若い世代を育みながら老いる様に、体細胞は生殖細胞を守る長い年月の間にDNA等に障害を蓄積していきます。加齢とともに核の中の傷ついたDNAは、核膜から漏れ細胞質に出てしまいます。そのことが様々な老化関連の現象を惹起することがわかっています。

病気の中には、認知症や運動障害のように老化と強い関係があり、予防や治療を必要としているものがあります。加齢関連疾患のベースには老化があります。そこに何かそれ以上の悪循環が起きると、疾患になるのだろうと考えています。

私達は老化や様々な加齢関連疾患に共通する細胞内のイベント、一方でそれぞれの加齢関連疾患に固有の誘引、それらを同定する研究を行っています。そしてパーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症、心不全、サルコペニア、肝不全などの難病の病態を解明しようとしています。

3. 発生と発達障害

ヒトは様々で個々に違うことがかえがたい魅力である一方で、多種多様であること、遺伝子の変化が起こりやすいことなどから、ある時代・ある環境では生きることによりチャレンジを要するヒトもたくさんいます。

小型魚類は発生過程の観察が容易であり、発生過程に起きる発達障害の研究に適しています。中でも特に神経精神に関連した発達障害に焦点を当て、その新しいメカニズムを見出すことで、障害の理解につなげます。

複数の研究系をつなぐ理由

神経変性、老化、発達障害は別の病気の名前に見えますが、ここでは脳疾患の進化的な起源を解明することと、原因分子の生理機能に立脚した病態の根本理解、その両輪で見ます。細胞・魚・マウスを中心としたさまざまな研究対象、最新の脳病態科学と進化学的手法、脳研究所のブレインバンクを融合します。どの入口から入っても、隣の研究系と接続できることが、ここで研究する理由の一つです。

ここから先を、一緒に考える。

神経変性

問い 脳疾患の原因となる分子は、細胞の中でどのような生理機能を担っているのか。

次に問いたいこと 脳の病気を起こす分子は、もともと細胞を守るためにある。では、なぜ守りきれなくなるのか。

老化

問い 老いることと病むことの境目はどこにあるのか。

次に問いたいこと 老化を止めずに、病気だけを止めることはできるのか。そもそもなぜ老化するのか。

発達障害

問い 神経や精神の発達障害は、遺伝子と環境でどう変わるのか。

次に問いたいこと 運動の中枢とされてきた小脳は、社会性や心にどう関わっているのか。より良い社会とはどんな社会か。

進化

問い 脳疾患や発達障害あるいは老化の進化的な起源は何か。

次に問いたいこと 病気の原因となる分子を、生物はなぜ何億年も手放さなかったのか。障がいが今の今まで存在する、そのわけは何か。

研究について相談する

テーマは、研究室の基盤と本人の関心・強みを出発点に、議論しながら具体化します。最初の計画をなぞるだけでなく、得られた結果から問いを育て、自分の研究へ発展させることを重視します。