研究: 老化・進化

問題設定

私たちはメダカやゼブラフィッシュで薬物添加や遺伝子改変により様々なパーキンソン病モデルを作ってきました。それらは病態理解に役立ってきましたが、患者さんの大部分を占める孤発性パーキンソン病を模すモデルは困難でした。そこで私たちが立てた問いは、自然選択が一度も見たことのない“老後”に、脳は何を起こすのか、です。

私たちの発見

魚類が多種多様であることは利点です。アフリカの短い雨季の水たまりにいる魚は、乾季には水がなくなれば死にます。乾燥に強い卵で種として存続するため、長生きの形質は選択されず、脊椎動物の中で最も(あるいは2番目に)短命です。このアフリカメダカを解析したところ、加齢のみでドパミン神経の変性、αシヌクレインの蓄積といったヒトパーキンソン病に類似の表現型を呈することを、2019年にCell Reportsに報告しました。さらに魚とヒトの脳のαシヌクレイン翻訳後修飾を詳しく調べ、T64リン酸化を同定し、oligomer形成の異常と毒性をPNAS 2023で報告しました。

代表論文: Matsui et al., Cell Rep., 2019. doi:10.1016/j.celrep.2019.01.015
Matsui et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2023. doi:10.1073/pnas.2214652120 / プレスリリース(PDF)

Matsui et al., Cell Rep. 2019 と PNAS 2023 の論文ページと、アフリカメダカの加齢関連研究の図
論文と解説図。Matsui et al., Cell Rep., 2019 および PNAS, 2023。アフリカメダカの加齢関連研究。

研究モデル・方法 / ヒトとの接続

現在はアフリカメダカが呈する老化と加齢関連疾患の病理解析とOmics解析を通して、ヒトを含めた生命の老化や加齢関連疾患に関する知見を出そうとしています。国内でいち早く安定飼育に成功し、海外の老化研究とは異なるアプローチで加齢関連疾患の病態解析に利用しています。

ここから先を、一緒に考える。

老化

問い 老いることと病むことの境目はどこにあるのか。

これまでの発見 アフリカメダカは加齢のみでドーパミン神経変性とαシヌクレイン蓄積を呈する(Cell Reports, 2019)。魚とヒト脳の翻訳後修飾からT64リン酸化を同定し、毒性との関係をPNAS 2023で報告した。加齢関連疾患のベースには老化があり、そこに何かそれ以上の悪循環が起きると疾患になる、というのが研究室の立場です。

次に問いたいこと

  • 老化を止めずに、病気だけを止めることはできるのか。そもそもなぜ老化するのか。

使えるアプローチ アフリカメダカの年齢比較を、病理、オミクス、画像、行動で行います。必要な場合はゼブラフィッシュや培養細胞で機構を詰め、必要な手続きを経て、ヒト試料で細胞・動物の知見を検証します。

関心のある人へ 老化生物学、比較病理、オミクス解析に関心がある人。魚の飼育経験は必須ではありません。

  • Matsui, H.*, Kenmochi, N., Namikawa, K. Age- and α-Synuclein-Dependent Degeneration of Dopamine and Noradrenaline Neurons in the Annual Killifish Nothobranchius furzeri. Cell Rep. 2019. doi:10.1016/j.celrep.2019.01.015
  • Matsui, H.*, Ito, S., Matsui, H., Ito, J., Gabdulkhaev, R., Hirose, M., Yamanaka, T., Koyama, A., Kato, T., Tanaka, M., Uemura, N., Matsui, N., Hirokawa, S., Yoshihama, M., Shimozawa, A., Kubo, S., Iwasaki, K., Hasegawa, M., Takahashi, R., Hirai, K., Kakita, A., Onodera, O. Phosphorylation of α-synuclein at T64 results in distinct oligomers and exerts toxicity in models of Parkinson's disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2023. doi:10.1073/pnas.2214652120

進化

問い 脳疾患や発達障害あるいは老化の進化的な起源は何か。

これまでの発見 パーキンソン病の原因分子であるαシヌクレインは魚類から登場する分子である。アルツハイマー病の原因分子であるアミロイド前駆タンパク質は、進化の過程で魚や昆虫にも存在する。アフリカメダカは老化の過程でパーキンソン病に酷似した病態を呈する(Cell Reports, 2019)。

次に問いたいこと

  • 病気の原因となる分子を、生物はなぜ何億年も手放さなかったのか。障がいが今の今まで存在する、そのわけは何か。
  • 野生の生き物も脳の病気になるのに、なぜその仕組みは淘汰されずに残ってきたのか。

使えるアプローチ 細胞・魚・マウスを中心としたさまざまな研究対象と、最新の脳病態科学と進化学的手法、脳研究所のブレインバンクを融合します。

関心のある人へ 進化学、比較生物学、疾患の起源に関心がある人。

  • Matsui, H.*, Kenmochi, N., Namikawa, K. Age- and α-Synuclein-Dependent Degeneration of Dopamine and Noradrenaline Neurons in the Annual Killifish Nothobranchius furzeri. Cell Rep. 2019. doi:10.1016/j.celrep.2019.01.015

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テーマは、研究室の基盤と本人の関心・強みを出発点に、議論しながら具体化します。最初の計画をなぞるだけでなく、得られた結果から問いを育て、自分の研究へ発展させることを重視します。