見過ごすことのできない誤解

私は一介の研究者ですのであまり政治的なことや社会的なことを触れたくはありません。しかしあまりにも看過できないので少しだけ説明します。

私達は歳を取るといろいろな病気になりますが、それは症状が出たときに始まるわけではなく、ずっと前から少しずつ無症状で進行しています。このような徐々に進行する臓器の機能低下、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、骨粗鬆症、サルコペニア、加齢性心不全、などですが、それらと老化を区別することは現状では困難です。つまりみなさんの誰でもが長生きすればパーキンソン病を始めとした病気になるかもしれません。

パーキンソン病は昔から真面目な性格の方が多いと言われており、実際に臨床をされている医師や看護師さんは大いに賛成されると思います。無症状の段階の何かしらの未病状態が性格に影響しているのか、あるいは真面目であることが危険因子なのか、はわかっていません。とにかくそういうわけですので多くの患者さんが診察や検査あるいは問診に非常に協力的です。医師や看護師にとってそれはとってもありがたいことで、私はとてもよい思い出をたくさん持っています。

プーチンが戦争を起こしたことで、プーチンの精神状態や持病について様々な憶測や発言が多くなっています。彼もまた人間ですのでパーキンソン病に罹患していてもなんの不思議もありません。そのことと関連付けて、パーキンソン病の方が悪いことをするかもしれないという誤解を招く短絡的な発言を私は決して看過することができません。プーチンが悪い、プーチンが病気である、そこからその病気は悪い、という理屈は完全に間違っています。私が卓球が好きである、私が研究者である、だから研究者は卓球が好きである、という理屈と同じです。なぜ正しい知識もないのにそういったことを安易におおやけにできるのか理解に苦しみます。

ただでさえも病気になると周囲に理解されず苦しい思いをします。その当事者の方やご家族の方を不快にさせるだけのこの考えは間違っていると、医学研究者・医師そしてパーキンソン病の専門家として断言します。患者さんやご家族のみなさんが負い目に思うことは何一つない、そして我々の誰もがなるかもしれない、そういう病気なのです。

2022年03月05日