私たちは、脳の神経回路が、どのようにつくられてはたらき、
どのように病態から回復するか、解き明かしたいと考えています。
わたしたちの研究室では、さまざまな神経の回路がどのような姿で存在し、機能を発揮しているのか明らかにしようとしています。 また、脳や脊髄が障害された場合に、このネットワークをどう再建し、回復するかを探っています。 そのため、下記のような研究を進めています。
① 神経回路の再建
脳卒中や脊髄損傷など、脳や脊髄が障害される病気では、神経回路が壊され、運動や感覚などさまざまな機能に後遺症をもたらします。破綻した神経はほとんど再生しないため、神経の機能を回復する根本的な治療法は確立されてないのが現状です。
わたしたちの研究室では、脳の病気で壊れた神経回路をどのように再建し、機能を回復するか、そのための原理や方法論を探っています。特に、脳の病気でしばしば障害される、運動をつかさどる神経回路や、生体の恒常性をになう自律神経の回路を対象として、下記の項目を中心に研究しています。
(1)神経回路の再生方法の探索
神経回路のネットワークは、神経細胞同士が軸索によってつながっています。軸索は、障害によりしばしば切断され回路網が壊されてしまいます。その結果、運動や自律神経など神経の機能が障害されます。切断された軸索の再生は困難とされてきました。その要因として、神経細胞自身が軸索を伸ばす能力を失ってしまうこと、また脳内の環境が軸索の伸長を阻んでいること、が挙げられてきました。
当研究室では、軸索の再生を阻むさまざまな要因を取りのぞくことで、軸索の再生をうながし、破綻した神経回路を再建する方法論を探っています。
(Nakamura et al., J Neurosci 2021; Ueno et al., Cereb Cortex 2020)
(2)神経回路の再編・修復メカニズム
破綻した神経回路が元に戻ることは、ほとんどありません。一方、わたしたちは、障害から逃れて残存した神経が、新しく代償的なネットワークを局所的に作り出し、神経の機能を変えうることを、これまで見出してきました(Sato et al., Nat Commun 2026; Ueno et al., Nat Neurosci 2016, Brain 2012)。
当研究室では、脳卒中や脊髄損傷のマウスモデルを用いて、神経回路が可塑的に変化し、つなぎかわっていく過程や、その分子メカニズムを明らかにしようと研究しています。特に、脳の局所–システムレベルで回路が再編し、機能を再獲得 していくプロセスや、この再編のプロセスを担う神経・グリア細胞の応答・連関による回路修復メカニズムに着目しています(損傷シグナル、神経活動、翻訳・タンパク合成、分泌、細胞内エネルギー等)。これにより、多階層でおこる回路再構築のプロセスとメカニズムの全体像の理解を目指しています(Sato et al., Nat Commun 2026; Inoue et al., Front Neural Circuits 2025; Sato et al., Front Neurosci 2021)。この回路の再編機序をコントロールできれば、新たなネットワークを作り出し、機能を回復へと導く方法となる可能性が出てきます。リハビリテーションにより機能が回復するメカニズムの理解へもつながります。
脳は、運動や認知、感覚など多様な機能を持つ神経回路により成り立っています。しかし、この神経のネットワークがどのようにしてこれほど多様な機能を発揮しうるのか、理解が進んでいません。わたしたちはこれまで、意図した動作をになうことで知られる運動の神経回路「皮質脊髄路」の接続のパターンとその機能の仕組みを見出してきました(Ueno et al., Cell Rep 2018)。皮質脊髄路の中に、多様な神経細胞のタイプによるつながりがあり、運動中の出力や感覚といったさまざまな要素をコントロールしていることが明らかになりました。
わたしたちの研究室では、健常時の神経回路がどのようにして形づくられ接続しているのか、また機能を発揮しているのか、明らかにしたいと考えています。特に、運動や自律神経に関わる未知の回路を同定し、これらの接続や機能を探っています。例えば、脳脊髄液に接するユニークなニューロンの標識・操作法を発見し、脳脊髄液から中枢神経内へとつながる回路網の構造や情報伝達の仕組み、機能を探っています(Nakamura et al., eLife 2023)。これらの研究から、神経回路の構成や動作する原理など、脳が機能をもってはたらく謎の解明を目指しています。こうした研究は一方で、脳脊髄の障害後にどのような神経回路を再建すべきか明らかにすることができます。① 神経回路の再建、の研究と連動し、障害後に神経回路をどのように再建するか探求していきます。
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脳や脊髄の病気は、臓器や免疫系など全身のシステムにも異常をもたらすことが近年明らかになっています。神経や液性因子によるシステム間の情報伝達ネットワークが、病気で壊れることで異常があらわれます。
例えばわたしたちは、脊髄の損傷後に自律神経が障害されると、免疫機能が抑制され、感染症のリスクを増大させてしまうことを見出してきました(Ueno et al., Nat Neurosci 2016)。このように、脳や脊髄の障害後に、神経や体の各臓器、免疫の機能がどのようにして破綻し、異常を引き起こしてしまうのか、そのメカニ ズムを探っています。
④ 脳神経疾患の発症メカニズム
原因がわからず根本的な治療法のない脳の病気が数多く存在しています。わたしたちは、脳研究所の各研究室、臨床部門と協力し、動物モデルを用いて病気が起こるメカニズムの解明を目指しています。特に、遺伝子改変マウスやウイルスを用いた、オリジナルの病態モデルにより、基礎研究から臨床へとつながる研究を進めています。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脳動静脈奇形(BAVM)といった原因も治療法もわかっていない病気の研究を進めています。ALSでは、運動回路網を病態が進行し、運動不全に至る詳細なプロセスの解明を行なっています(Tsuboguchi et al., Acta Neuropathol 2023; Mori et al., Neurobiol Dis 2025)。またBAVMでは、脳血管の遺伝子変異により異常な血管網がつくられ脳出血に至る病態プロセスの解明を目指しています(Saito et al., JCI Insight 2024)。さまざまな脳疾患モデルを用いて、病気の起こるメカニズムや治療法の探索を進めていきます。
Movie 1 / Movie 2
以上のような健常時、障害時の神経回路の状態を明らかにするために、特定の神経回路を標識、操作したり、機能を解析するさまざまな手法を用いています。遺伝子改変マウスやウィルス神経トレーサー(AAV、PRVなど)、光・化学遺伝学、3次元行動解析、オミックス解析、など多様なツールを駆使しています。
こうした技術をもとに、学内外、国内外の研究者と共同研究も進めています。
これまでの代表的な研究
Scg2 drives corticospinal circuit reorganization with spinal premotor interneurons and astrocytes for motor recovery after stroke in mice.
Sato T, Nakamura Y, Hoshina K, Inoue KI, Takada M, Yano M, Matsuzawa H, Ueno M.
Nat Commun 17: 4880, 2026
https://www.nature.com/articles/s41467-026-73518-x
新潟大学 からプレスリリース、新潟日報朝刊(2026年6月10日)に掲載
Corticospinal circuits from the sensory and motor cortices differentially regulate skilled movements through distinct spinal interneurons.
*Ueno M, Nakamura Y, Li J, Gu Z, Niehaus J, Maezawa M, Crone SA, Goulding M, Baccei ML, Yoshida Y.
Cell Reports 23: 1286-1300, 2018
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124718305254?via%3Dihub
新潟大学 、JST 、シンシナティ小児病院 からプレスリリース
新潟日報朝刊(2018年5月15日)、科学新聞(2018年5月25日)に掲載
Silencing spinal interneurons inhibits immune suppressive autonomic reflexes caused by spinal cord injury.
Ueno M, Ueno-Nakamura Y, Niehaus J, Popovich PG, Yoshida Y.
Nat Neurosci. 19(6):784-7, 2016
JST からプレスリリース
シンシナティ小児病院 、オハイオ州立大学 詳細 からプレスリリース
実験医学(羊土社)、にて紹介
日本せきずい基金ニュース、にて紹介
Layer V cortical neurons require microglial support for survival during postnatal development.
*Ueno M, Fujita Y, Tanaka T, Nakamura Y, Kikuta J, Ishii M, Yamashita T.
Nat Neurosci. 16(5): 543-551, 2013
Thomson Reuters社Web of ScienceにてHighly Cited Paper
F1000Prime のArticle Recommendationsに選出
ライフサイエンス新着論文レビュー にて紹介
JST/大阪大学 からプレスリリース
Intraspinal rewiring of the corticospinal tract requires target-derived BDNF and compensates lost function after brain injury.
Ueno M, Hayano Y, Nakagawa, H, Yamashita T.
Brain.135(4): 1253-67, 2012
NHKテレビ「おはよう関西」にて紹介(2012年4月3日)
時事通信(2012年4月2日)、読売新聞朝刊(2012年4月4日)に掲載
大阪大学 よりプレスリリース
Brain Blogger にて紹介
私たちの研究は多くの支援により成り立っています
挑戦的研究(萌芽)(日本学術振興会: 科学研究費補助金、2017–19年)
若手研究(A)(日本学術振興会: 科学研究費補助金、2017–20年)
新学術領域研究(適応回路シフト)(文部科学省: 科学研究費補助金、2017–18年) リンク
千里ライフサイエンス振興財団 岸本基金研究助成(2017年)
武田科学振興財団 医学系研究奨励(2017年)
成茂神経科学研究助成基金(2017年)
宇部興産学術振興財団 渡辺記念特別奨励賞(2017年)
加藤記念 研究助成(2017年)
日本心臓財団 研究奨励(2017年)
東京生化学研究会 研究奨励金(2017年)
さきがけ(科学技術振興機構)(2013–17年) リンク
海外特別研究員(日本学術振興会)(2012–13年)
海外留学助成金(かなえ医薬振興財団)(2012年)
若手研究(B)(文部科学省: 科学研究費補助金、2009–11年)