神経の頑健性

神経細胞の頑健性を維持するメカニズム

神経細胞は細胞内外からのストレスに対して耐性を有しており、過度な活動(=神経の過活動)によるストレスにも一定の頑健性を有します。しかし、この神経の過活動に対する頑健性も生涯に渡って維持される訳ではなく、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患や加齢によって失われてしまいます。過活動によるストレスの中で、どのような分子イベントが臨界点となるのでしょうか?申請者はこの疑問を調査するために、ショウジョウバエの光受容体である視神経細胞をモデルとして用いてきました。短期的な光刺激により神経の過活動を模倣し、その結果として可逆的なシナプス再編成が起こることを発見し、その分子機構を明らかにしました(Neuron 86(3):711-25, 2015)。この光刺激が長く続くと神経変性に至ることを見出し、シナプス喪失から軸索変性を定量的にモニタリングできる実験系を樹立しました(J. Neurosci. 42(24):4937-4952, 2022)。この実験系は、「光ストレスで誘導される軸索変性」という人工的な系であるものの、神経の過活動によるシナプス喪失や軸索変性を模すことができ、多くの神経変性疾患の病態を解明する上での価値が高いと考えています。さらに、この変性過程を自動的に定量化する機械学習解析プログラムMeDUsAを開発し(Hum. Mol. Genet. 32(9):1524-1538, 2023)、TauやaSyn、TDP-43、HttのポリQ凝集による神経変性の大量サンプルの定量にも成功しています。これらの成果を基に、シナプス解析技術および神経変性定量システムを利用して、私たちは、神経生存に必要な分子の探索およびメカニズムの解明に挑戦しています。